もしも、孫兵がさんろに無自覚嫉妬したら! 忍術学園に入学して、僕を迎えたのは慣れない体験たちばかりだった。 自分でたたむ布団、自分でつくる夕食、そしてなにより自分と同じ部屋で一緒に生活をする一ノ瀬要という存在。 ×××手をつなぐ温度 一ノ瀬要は僕と同室の同級生だ。友達なんてジュンコがいるからいらないと冷たく考えていた僕に、初めて出来た友人である。 なんともお節介なやつで、初対面からジュンコを探しにいこうとする僕についてきて手伝ったり、その後も食堂で僕の分も席をとっていてくれたり、朝に顔を洗っていたら手拭いを渡してくれたり。 ジュンコにも自分から歩み寄って仲良くなろうと試みているのをみて、僕はなんだか馬鹿馬鹿しくなって突っぱねていた神経をいつの間にか緩めてしまっていた。 「孫兵」 伊賀崎くん、から 孫兵くん、になって、 「なんだよ」 孫兵、になって。一ノ瀬、から要、になったころには僕も要も、お互いに気心の知れた友人になっていた。 「きいてきいて!今日ね、貸し出し帳簿の字が綺麗で読みやすいって雷蔵先輩に褒めてもらったの」 えへへと笑う要は委員会の先輩に褒めてもらえたのがよっぽど嬉しいらしく、ふにゃりと表情をゆるめて僕の膝をたたく。 「お前ほんとうに雷蔵先輩が好きだな」 「うん!雷蔵先輩やさしくてだいすき」 「ふーん。あ、そうだ要。要の好きなお菓子をさっき竹谷先輩にいただいたんだ。お茶いれろ」 ごそごそと机の下から包みを取り出して中身をひらく僕を、要はきょとんと見つめてやがて嬉しそうに表情をほころばせた。 「へへー」 「なんだよ気持ち悪いな」 「ううん、僕の好きなもの覚えてくれて嬉しいなーって」 「はぁ?べつに、同室なんだから選り好みくらい覚えるよ」 「そうだね。僕も孫兵のペットたちの名前覚えちゃったもん」 「ほー言ってみろ」 「えっとねー」 指を折りながら僕のペットたちの名前を上げていく要に、本当だと目を瞬かせる。 「やるな」 「同室だもん」 笑う要に僕もくくっと喉を鳴らした。 そんな会話をしてから、僕はなんとなく前より意識して要に目を向けるようになった。要の癖、要が苦手なもの、要が好きなもの。 それがわかるようになると、なんとなく先回りができるようになって、しっかり者のくせに少々抜けている要のフォローをしてやれるようになった。 「お前、それ食べられないだろ。ほら、僕のと交換しろ」 「え、よく覚えてたね」 「まーな」 こんな会話や行動が増えて、僕はそれに心地よさを感じていた。 要のことは、僕がよくわかっている。 「じゃあ僕はちょっと委員会に行ってくるから」 「うん、病気の子を看に行くんでしょう?手伝えることあったら呼んでね」 「ああ、ありがと」 「あ、孫兵いた!要も居るか!?」 「左門どこ行くんだよ、要たちの部屋はそっちじゃ……あれ?孫兵だ」 「ボケも大概にしろ三之助」 視線を要から外に向けると、同級生の三年ろ組の三人組がぱたぱたとこちらに走ってきていた。要が僕の前にひょこっと顔をだして首をひねる。 「あれ、みんな。どうしたの?」 「作兵衛が竹とんぼ作ってくれたんだ!一緒に遊ぼう!」 得意げな表情でぶんぶん振り回す左門の手には竹とんぼが握られていた。三之助も竹とんぼを持ち上げて見せ、興奮気味にまくし立てる。 「すげーんだぜ、これが完成度たかくって」 それに僕はすこし眉をさげて応える。 「悪い。僕はこれから委員会に行かなきゃならないんだ」 「えー!要は?作兵衛の竹とんぼすごいんだぞ!行こう!」 「そ、そんなに褒めてもなにも出ねぇぞ!」 「あはは。うん、行こうか」 要は行くらしく立ち上がって迷子対策のために左門と手繋いだ。僕も一緒に外へ出る。 「作兵衛、用具委員会だから手先が鍛えられてるんだね。いいなぁ」 「要は不器用だもんなぁ。鍛えてやろーか?」 「うーん切実にお願いしたいかも」 けらけら笑う作兵衛に要も苦笑する。 「不器用なせいで委員会の本の修繕もうまく出来なくて、迷惑かけちゃうんだよねぇ」 「大丈夫だぞ要!最初からできるやつなんかいないからな!一個ずつやればいいんだ!」 「……ありがと、左門」 「あー要ほっとくと指傷だらけの血だらけにしてまでこそこそ練習とかやりそうだもんなー」 「う、うるさいな!」 顔を真っ赤にする要に三之助はにやにやしながら「その指の傷そうだろー」と追い討ちをかける。 「ち、ちがうよ。そりゃちょっと自分の教科書で練習したりとかはやってるけど……」 「雷蔵先輩に褒められたいんだな?」 「っ!?もーいいじゃん僕のことは!!」 「……」 むかつく。 「……?」 無意識に浮かんだ言葉に思わず首をひねった。むかつく?なにが? 「……」 要をわかっているように言われたから?はぁ?なんで僕が。 なんで僕がそんなことでむかつかなきゃならない。 「要は本当に雷蔵先輩が好きなんだなー!」 「……だって、優しいし」 「いいなぁ。食満先輩すげぇ怖くてさぁ」 「でも食満先輩ちょっと格好いいって言ってたじゃん、作兵衛」 「……うん、まぁ」 「ん?つか要ちょっと顔色悪くないか?」 「え?」 唐突に三之助が言った言葉に僕も弾けるように顔を上げる。 「えー?そんなことないよ」 「そか?なんかいつもより元気ないし。気のせい?」 「……うーん、ちょっと風邪っぽいだけ、大丈夫」 「やっぱりそーだったのかー!なんかおかしいなと思ったぞ!」 「なら遊びに誘うな馬鹿」 べしっと作兵衛が軽く左門の後頭部をはたいて、要はそれに大丈夫だよーなんて返しながらクスクス笑っていた。 「……」 僕、は 全く気がつかなかった。のに 「要、休んだ方がいい」 「え?」 気がつけば僕は、左門と手をつないでる方とは逆の手をつかんで、強く要を引き留めていた。要はきょとんと足を止めて、不思議そうに首をひねっている。 「孫兵?」 「もし酷くなったら授業も受けられなくなるぞ。今から体を休めた方がいい」 「あ、大丈夫だよ孫兵。ほんとにちょっと風邪っぽいだけだから」 「駄目だ」 困ったような表情をうかべ、ろ組をちらりとうかがう要に苛立ちが募る。 なんだよそんなに、行きたいのか。 「うーん……」 なんで、なんで? なんで僕はこんなに 「そだな。やっぱり止めとけー要」 あっけらかんとした三之助の言葉にはっと我に帰る。作兵衛も頷いて懐から竹とんぼを取り出すと、僕の手に握らせた。 「へい、と。また具合良いときな!な、孫兵」 「、あ、ああ」 「えーそっかぁ。残念だけどしょーがないな!はやく元気になれよ要!」 要の握った手をぶんぶん振って、左門がからから笑うと要も困ったような表情を崩して優しくほほえんだ。 「ありがと、ごめんね左門」 「いーぞ!元気になったら竹とんぼ勝負だ!」 「おーいいねぇ。夕食のおかず賭けよーぜ」 「おおー?言ったね三之助?」 「三回勝負な」 クスクス三之助と笑い合う要の手を、左門がすこし名残惜しそうに離して、ろ組はじゃあまたなと来たときと同じように騒がしく走り去っていった。 「……」 「? 孫兵?」 僕はまだ手を離せないでいた。 「……っ」 さっきの会話が頭のなかで反芻されて、頬が熱くなる。正当なようで、僕はだだをこねただけだ。ろ組が要と親しくて、僕より要の様子にいち早く気がついて、仲が良さげで、 むかつく、って。 寂しい、って。 「孫兵?」 取られたくない、って? 「……きもちわるい」 「えっ」 うんざりしたような表情を浮かべているのが自分でもわかった。要が僕の手を両手で握り返して、心配そうに顔を覗き込む。 「だ、大丈夫?具合悪いの?孫兵」 「僕は病気かもしれない」 「えっえっどうしよう!いいい医務室いこうとりあえず!」 おろおろしながら僕の手をとる鈍感で馬鹿な同室の友人は、具合が悪いのは自分だろうに僕を心配して医務室へバタバタと走り出す。 気のせいだ絶対、こんなの。 「あ、孫兵」 「なんだ」 「さっきありがとうね。心配してくれて」 振り向いてはにかむ要に、また胸にじわっと人肌温度の熱が広がる。 ああまた。 まただ。心地好い、要の温度。 「……べつに、同室だし」 知られたくなくて、隠さなくてはいけないような気がして、僕は色の浮いた頬が見えないようにうつむいて素っ気なく顔を逸らした。 ×手をつなぐ温度× (孫兵なんかおかしかったなー)(生理かな)(まじで言ってんのお前。んなわけないだろ。あー孫兵も具合悪かったんじゃないか?わかんねぇけど) ※ 実はそんなに鋭くなかったさんろ。うちの三之助は安定で自重しません。 さてあきたみ様、企画参加ありがとうございました! もしも、孫兵がさんろに無自覚嫉妬したら? ほとんど衝動でやってしまうが主くんは気がつかず(なんか様子おかしいけどどうしたのかなー程度)、自分で後で思い返してうわああああってするんだろうなーと思いますw しばらくは理不尽に主くんに当たってそうです。 この度は10万打ありがとうございます!これからも主くん共々よろしくお願いいたします。 ヤマネコ ※ブラウザバックでお戻りください。 |