もしも主くんが作に甘えたら!

※恋人設定&現代パロディ


何回も何回も、要の声が頭の奥で反芻される。信じられないという思いが、冷静になりきれない俺を全力でかき混ぜた。


想いを伝えるだけでいいと散々悩んで決めたはずだった。伝えるだけで、それ以上を望みはしないと。


でも


「要のことがずっとずっとずっとすっ、好きだったんだだから!!!だ、だから、」


なぜ"だから"と接続詞を置いてしまったのか。"だから"なんて。それ以上を望みはしないだって?


「(そんなのっ……)」


そんなの俺の思い込ませだ。


「俺と付き合ってほしい!」


言ってしまった。
言ってしまったとうとう、勢いに全部を任せて。


そして、そして要は


「あ、あ、ぼ、僕なんかで良かったら」


何回も何回も、要の声が頭の奥で反芻される。信じられないという思いが、冷静になりきれない俺を全力でかき混ぜる。


「あ……え……?」


この瞬間、晴れて俺と要は恋人同士という関係になったのだった。


×××重なるメルト



「……うわああああああ」


「うおっ」


もう3日も前の話なのに、俺はあの時のことを思い出しては自室の畳を高速で転がる。隣でお菓子を咀嚼していた三之助がポテトチップスを守るように抱え込んで、俺から飛び退いた。


盗らねぇよ別に。


「なんっ、なんだよ作!驚かすなよなー」


「悪い………」


「……要のこと?」


想い人の名前を不意討ちで呼ばれ、ぱちっと目が開く。三之助の方を向けば、にやにやとしながら俺をつついていた。


「な、なんなんなんなん……」


「なんで?そりゃ気付くわ!作の要への態度の急変!前から可笑しかったけど突然の急変!あれだけ変わりゃぁ嫌でも気付くわ!壁がもうボコボコだわ!」


「壁?」


「代行だよ代行」


そんなものは大した問題じゃないとひらひら右手を振り、三之助はまたぱりぱりとポテトチップスを口に放り込む。


「で、どーなん。要とは」


「いやどーって……」


「要に恋人かぁ。いそうでいなかったからなぁ。鈍すぎるというか。恋人の前ではもっと可愛かったりすんの?」


「可愛い……?」


「ほらこー……じゃれてきたり、くっつきたがったりとか……あああああ爆発!!!」


指を折って恥ずかしいことをぬかし始めたと思ったら、いきなり発狂して床をどんどん殴る三之助に距離を取りつつ思案する。


そういえば……


「して、ない」


「ああ!?」


「俺、要とそういう恋人らしいこと、してない。というか、あれ以来二人で会うとかやってねぇ」


「ああまぁ、元々珍しい組み合わせって感じだもんな。要と作って。仲が悪いってわけじゃないんだろうけど」


ふむふむと腕を組み、三之助はちらりと俺に探るような視線を送る。


「したくないの?そういうこと」


「……」


好きで、伝えて、要はそれを承諾してくれて、俺たちは今そういう仲で。


いや、そんなの関係なしに。


「……………してぇ」


恥ずかしさの余り、両腕を交差させて顔面を隠す。熱が浮かぶ熱が浮かぶ。うわなんで、俺って変態なのか。


「じゃあ決まりじゃん。要に会いに行けよ」


「はぁ!?今から!?」


思わず飛び起きると、三之助はしらっとした顔で当たり前だろと返す。


「で、で、でも今要ってたぶん部屋だろ?まご、孫兵居たら」

ここは学校の寮で、要は孫兵と同室だ。この時間帯なら委員会でなければ要は部屋にいるはず。ただし、孫兵と、だ。


「あんなぁ作!」


三之助がばりっとポテトチップスをひとかじりして………というかどれだけ食ってんだお前は。見間違いじゃなけりゃそれは俺が買ってきたコンソメポテトチップスだ。


「お前はなぁ!彼氏なんだよ!か!れ!し!別に同室が居ようとかの、彼女!彼女に会いに行ってなにが悪いんだ!」


頭のなかで雷が轟き、雷龍が俺を貫いて、コンソメポテトチップスについて突っかかろうとした口が静かに閉口した。


「かれ、し……」


「そうだ!お前は要の彼氏だ!いけいけどんどんだ!」


「、わかった……俺、行く」


しっかり立ち上がった俺に、三之助がひゅーと口笛を飛ばしながら頭上で豊作を喜ぶ部族のように手を叩いた。


「作かっこいい素敵ワンダフルチョコチップクッキーも食べていい!?」


「駄目」


「ケチー!いけずー!」



※※※


最近、要と作兵衛が付き合い始めたらしい。


「……ふぅん」


と、僕の反応はこんな感じだ。いやそりゃ、ちょっとだけ、なんとなく、へぇ?みたいな。とにかく僕は特になにも無い。


作兵衛の方はもう傍目からも嫌というくらいに分かりやすい。要と恋人になってからも、要の傍にいるだけで幸せそうな。わからないのは要で、こいつは前とは態度がほとんど変わらない。


普通に声をかけて普通にご飯をたべて普通に授業を受けて、至って模範的な学生生活を送っている。そわそわするというより、どっちかというと僕は要が一歩引いている感じがする。


「要ー作兵衛がきたぞ」


「え?」


読んでいた本から顔を上げて、要はきょとんと首をひねりながらこちらに近づいてくる。


「よ、よう、要」


「作兵衛。どうしたの?」


「あ、いや、その」


そわそわと顔を赤らめ、落ち着きなくめを泳がせる作兵衛に僕はああ三之助に焚き付けられでもしたかと納得した。


「僕、そろそろジュンコの散歩だから行くな」


作兵衛が目を見張ったのをみて、僕は笑いを抑えきれず少し溢して作兵衛の肩をたたく。首のジュンコもしゅるりと作兵衛に頷いてみせた。


「入れよ作兵衛。お茶いま煎れるところだったし。さ、お散歩に行こっかージュンコ」


ジュンコに頬擦りして、部屋を出ようとした瞬間。要が、信じられないようなことをした。


「あ、」


くんっと要が僕の服のすそを掴んだせいで、一瞬歩みが止まる。僕は思わず「え」と素で驚いた声をだしてしまって、目を瞬いた。


「要?」


「え、あ、ご、ごめん!行ってらっしゃい!今日風、冷たいから気をつけてね!あ、僕のマフラー貸そうか!?」


「いや、大丈夫だ。ついでに竹谷先輩のところに寄るから」


「あ、そ、か」


そっとすそを離し、作兵衛に視線をやって慌てて笑顔を浮かべる。


「、じゃあ入って作兵衛!中在家先輩からいただいたお菓子があるから!」


「あ、おう」


「どうぞどうぞ!」


ぱたんと閉まったドアをしばらく眺め、僕はどうしたもんやらと小さくため息をついてジュンコの頭を撫でた。


とりあえず三之助のところにでも行こうか。


「さすがに寒くて散歩できないもんなージュンコ」



※※※


ほとんど夢うつつな足取りで要に促された椅子に座る。さっきの光景がフラッシュバックのように何度も何度も何度も俺を叩いた。


あれじゃあまるで、俺と二人きりになるのが嫌、みたいな。


泣きたくなってしまい、慌てて首を振る。いや、いやでも、もしかしたら要は無理に俺との付き合いを承諾したんじゃ。要のことだから、俺を傷つけまいと、思って?


「あー……作兵衛あの、オレンジジュースでいい?」


少し困ったような顔で要がオレンジジュースのパックを持ってこちらへやって来るのを見て、俺は必死に笑顔を作ろうとしたが、駄目だった。


「?作兵衛?」


「あ、のさ、要」


「…ん?」


「要は、俺のこと、嫌い、か?」


「え!?どうして!?そんなことないよ!僕、ぼ、く」


とたんに泣き出しそうになる要に、背中に氷を突き立てられたみたいにひやっとした。


「いい!やっぱいい!ごめん!言わなくていいから!」


「、っ」


違う。違う違う違う違う。俺は要にこんな顔させたいんじゃなくて。違くて、でも要の一番にはなりたくて、要を誰にも盗られたくはなくて。でも、でも俺は


笑ってる要が一番、好きなのに。


「や、めるか」


「え……」


「付き合う、っていうの、やめよう要」


言った瞬間、視界が歪んだ。泣きたくなくて無理やり振り払う。


「ごめんな、最初はただ要に伝えるだけでいいって、そう思ってたんだ。だから、」


また、"だから"


だから?


「だから、ありがとう」


ありがとう。
ごめんな、


俺のせいでこんな顔をさせてしまうなら俺は要らないし、居ない方がいい。要がまた笑うなら。


「作っ」


「っ?」


要がうつむく俺の手を慌てて取る。驚いて目を見開くと、要はおろおろと泣き出してしまいそうな顔で拙く言葉をつむいだ。


「あの、あのね、違うんだ。ぼく、べつに作が嫌いなわけじゃ、ないよ」


「要……?」


「作に好きって言ってもらえて、嬉し、かったよ。嬉しいのと同時に、その、僕どうしたらいいかわからなくて」


みるみる要の耳が赤くなっていく。感化されて俺の顔まで熱くなった。


「変なの……作は好きだけど、なにがどうしたらいいか、ぼくこういうの経験がなくて、」


「そんなの、俺もだ」


男と、ましてや友達と恋人になるなんて初めてだ。こんなに締め付けられるるくらい好きになるのなんて、初めてだ。


「………悪いことじゃ、ないんだよね?」


要の伏せた目の睫毛が綺麗で、どうしようもなく苦しくなった。


「作、ぼくどうしたらいい?僕は作が好きだよ。でも、どうしたらいいか、どうしたらいいの?」


「………俺、は」


"お前は彼氏なんだぞ!"


「俺は、要に触りたい」


「え……えっ!?」


要の手をとり、指を合わせる。


「要に触りたいし」


「えあ、あの、作?」


「要にも触ってほしい」


ああ、そうだ。
全部がほしい。要が要まるごと。俺にしかわからない。俺にしか知らない要が。


要は、なにを見せない?


「甘えて、ほしい」


「え?」


「要に甘えてほしい」


「甘える?」


「うん」


要はきょとんとした表情をしてから、やがて困ったように首をひねった。


「甘えるって……どんな風に?」


「だっ……あ、甘えるは甘えるだろ!」


「えー?僕よくわかんないよ。どうしたらいいの?」


「それ!それ止めろよ!」


「え」


「俺の気持ち、考えてくれんのは嬉しい、嬉しいけど。だから、その、もっと要に欲に爆発的になってほしいっつぅか。ああ!?意味わかんねぇ!もう!」


ごちゃごちゃ考え煮詰まる頭を振り切り、俺はぎゅうと要を引き寄せ抱きしめた。


「さっ…さささ作!?」


「好きだ」


「うぇ!?」


「好き、要が好きだ。要は?」


「あ、あえっと……」


要はおそるおそるといった感じで俺の腰を両腕でつつみ、きゅうと顔を肩に埋めた。


「好き、です」


「お、おう、」


「あ……」


「ん?」


「気持ちいいね、なんか……作、いい匂いする……」


「!」


すりすりと肩に頬擦りする要に、おっ始めたのは自分だというのに大層混乱してしまう。ドキドキと心臓がうるさい。顔が、身体中が熱い。でも。


「安心する」


「うん」


目を閉じて要の鼓動を聞く。とくんとくんと弾んだ鼓動は、俺と重なって溶けていく。


「……作」


「ん?」


「、ぅあ、の、あのね、キスしたい……です」


「!」


××重なるメルト
(重なる唇のメルト)




英原ララさま企画参加ありがとうございました!

四苦八苦していたところを彼氏のいる男友達に助言してもらいなんとか書き上げました……いかがでしたでしょうか。うーんなんだかリクエストにそぐわない気もしますが…


この度は100000打ありがとうございます!これからも主くん共々よろしくお願いいたします。


ヤマネコ



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