ごめんなさいのきっかけ

「だめだぁー!」


さっきのランチのときに頭の頭巾を食堂に忘れてきてしまった。そんな理由でぽてぽてと取りに歩いていたら、食堂から彦四郎くんの声が聞こえたのである。


「どうしたのー?」


「わっ!」


「あ、要先輩。こんにちは」


ひょこっと顔を覗かせると入ってすぐのテーブルに2人は座っていた。僕を振り向いて驚く彦四郎くんと向かいに庄左ヱ門くんがぺこりと頭を下げてくれた。


「こんにちはー。ごめんね、彦四郎くん。驚かせたかな?」


「い、いえ」


「あ!そーだ彦四郎、要先輩に聞いてみようよ」


「ああ、そうだな!」


「え?」


首を捻る僕を彦四郎くんが椅子に座らせてくれた。庄左ヱ門くんはお茶入れてきますね、とぱたぱたと厨房へ消える。


「あ、ああ、なんだかごめんね。僕、通りかかっただけなのに」


「いえ!要先輩の御意見が聞きたくて!」


「僕の意見?」


「鉢屋先輩と尾浜先輩が喜ぶものって、なんだと思いますか?」


コトンとお茶の入った湯のみをテーブルに置いて、庄左ヱ門くんが首を捻る。


「鉢屋先輩と尾浜先輩?」


「はい」


「実はこの間、僕がちょっとテストで酷い点数を取ってしまいまして……安藤先輩に怒られて補習で委員会に行けなくて……」


「僕も、は組のみんなと授業でランニングだったんですけど……途中でみんなで道に迷った挙げ句、山田先生ともはぐれてしまって、委員会に行けなくて……」


「僕たち2人が抜けてしまったせいで、この間の委員会はいろいろ書類が多くて忙しかったのに」


「鉢屋先輩と尾浜先輩に迷惑をかけてしまったんですよね」


しょぼんとしょぼくれる2人に僕は苦笑をこぼした。


「大変だったんだね。それでお詫びになにかしたいと……うん、そういうことなら、僕は全面的に協力するよ!」


「本当ですか!?」


「ありがとうございます!」


「いえいえ」


ううん、でも鉢屋先輩と尾浜先輩が喜ぶものって、なんだろう?


「うーん、食べ物はどうかなぁ。胃袋掴む方向で。よく委員会でお菓子食べてるよね?」


「あ、はい。鉢屋先輩も尾浜先輩も甘いものは好きだと思います。ね、彦四郎」


「うん。庄左ヱ門のいれるお茶が美味しいから、甘いものも美味しくなるし、僕も好き」


「あーわかる。本当に美味しいよねぇ、庄左ヱ門くんのいれるお茶」


「えへへ……ありがとうございます」


頬を染めながらはにかむ庄左ヱ門くんに、彦四郎くんも笑う。和やかな雰囲気がただよう食堂のなかで、僕にひとつのアイデアが降ってきた。


「あ、ならお菓子を手作りして、庄左ヱ門くんのお茶をいれてあげるっていうのはどうかな!喜ぶと思うよー」


「僕がお茶をいれるのは構いませんけど……」


「お菓子なんて作れないですよ!僕!」


要先輩もしかして作れるんですか?と2人からキラキラとした視線向けられ、僕はきょとんと首をかしげた。


「僕は作れないけど」


「駄目じゃないですか!」


「でも一番確実な案だよ、彦四郎。お茶なら僕もそれなりに自信あるし、お菓子をなんとかすれば」


「うーん……作るって言ってもなにを……」


「あ、くのたまの子に聞いてみようか?」


「「え」」


「くのたまのええと……おシゲちゃん?が確かしんべヱくんにかすていらをプレゼントしてるのを見たことあるよ」


「ええー……でも」


彦四郎くんが全力で身を引いている。それを後ろからポンと庄左ヱくんがなだめて、僕らはくのたまに会いに行くことにした。



※※※



「失礼します。あ、ユキちゃん」


「要先輩!」


くのたまの教室を覗くと見知った顔がぱっと笑顔を浮かべて立ち上がる。


「どうしたんですか?くのたま教室になにかご用時?」


うん、と頷く僕にユキちゃんはにこっと笑みを浮かべる。その後ろでなにやらどたばたとくのたまの子たちが暴れていた。


「千鶴は!?千鶴どこよ!」


「や、やぁ、無理だよぅ、わたし」


「なに言ってんの!ほら!」


「話しかけるチャンスでしょ!」


「おシゲちゃんはいるかな?」


僕が言った瞬間。
目の前のユキちゃんも、後ろでどたばたしていたくのたまの子たちも動きがピタリと止まった。


「おシゲちゃん……ですか?」


「え?うん」


「ち、千鶴じゃなくて?」


「?千鶴ちゃん?いや、僕はおシゲちゃんに……」


「「「「「要先輩さいってー!!!!!!」」」」」


「えっ」


ユキちゃんの後ろからくのたまの子たちが一斉に僕をまくし立てる。みんながみんな非難の大合唱で、僕はそれに気圧され後ろに引くと慌てた様子で彦四郎くんが「逃げましょう!」と僕の腕を取って走り出した。


※※※


「僕、なにかしたかな…?」


ぜぇぜぇと息絶え絶えな2人になんだか申し訳なくなりつつ、首をひねる。先に息を整えた庄左ヱ門くんが「まぁ、こういう時もありますよ」とフォローしてくれた。


「やっぱり、僕らで、なんとか、するしか、はぁ、ないですね、」


「うーんそうだねぇ」


「図書室でお菓子作りの本を借りてくるのはどうですか?」


ぴっと庄左ヱ門くんが手を上げてナイスアイデア!を出した。それでいこう!と僕は2人に手を握られてぱたぱたと図書室へ向かう。


「失礼します、三年い組の一ノ瀬要です」


「要先輩?」


「あ、久作」


受付の台には久作が座っていた。へらりと笑って「当番お疲れ様」と手を振ると、久作は少し照れくさそうに手を上げて振ろうとしてくれる。


「能勢久作先輩!」


「こんにちは」


「!お前たちっ」


「?能勢先輩、なんで軽く挙手してるんですか?」


「!!!違っ…違う!お前たち図書室では私語は慎め!馬鹿者!」


横からひょこひょこと出てきた一年生2人を黙らせるように、久作が2人の頭を押さえ込んだ。


「ごめんね、久作」


「あ、いや、要先輩は違くて、!」


「?」


「っき、今日は図書当番ではないですよね?図書室に一年坊主となにか御用ですか?」


「ん、ああ、そうなんだ。お菓子作りの本ってたしかあったよね?借りたいんだけどあるかな」


「お菓子作り?」


久作がきょとんと僕を見る。理由は久作の手の下でもがく彦四郎くんが説明してくれた。


「委員会の先輩にお詫びで差し上げたいんです!」


「お詫び?な、なんか大変なんだな。ええっと」


一年生2人の頭から手を離して、貸し出し帳簿をぺらぺらめくり指でなぞっていく。そして顔をしかめた。


「残念ですけど……二日前にくのたまが借りていってしまってますね……」


「「ええええええ!?」」


「うーん……あの本くのたまの子に人気だったからねー…」


「他にないんですか!?」


庄左ヱ門くんがすがるように僕の忍服を握る。が、残念ながら無いのだ。


「忍者食のレシピ本なら複数あるんだけど……お菓子作りの本に関してはその一冊しか無いんだよ」


「きり丸にくのたまが相当しつこく抗議して、やっと仕入れた書物でしたからね」


久作の苦笑に僕も合わせる。一年生2人は「はぁあ」と脱力して床に座り込んでしまった。


「どうしよう庄左ヱ門……」


「うーん……」


とんとん、と誰かに肩をたたかれた。振り向くと中在家先輩が立っていらっしゃった。僕はハッと我に返って慌てて頭を下げる。


「すみません!騒がしかったですか?」


「…………これ」


中在家先輩が差し出したの真新しい紐で閉じられた書物だった。意図がわからず、ぽかんと中在家先輩を見上げると中在家先輩は僕の手にその書物を持たせた。


「ぼーろの作り方が……書いて、ある」


「えっ」


「と言っても……私が簡単にまとめたものだ……役に立つかは……」


「ありがとうございます!」


僕は中在家先輩の手を握って頭を下げた。


「お借りします!あとでお部屋に返しに行きますね!」


「……分量をきちんと量るのがコツ……」


「はい、わかりました!」


書物を掲げて脱力している2人に見せると、2人も中在家先輩にありがとうございます!と綺麗に頭を下げた。


これでお菓子はなんとかなりそうだ。






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