変わらないもの03

「藤内!僕を置いていかないでよ!先に1人で行っちゃって!」


そんなことを言いながら、黒忍者の隣に降り立った彼は、なめらかな動作で左手を黒忍者の後ろ首に当てる。


ちくり


「……ッな!」


「わぁ怖い」


くすくす笑って彼はひらりと僕たちの元へ降りてきた。そして僕の姿を見るなり、少し怒ったような顔をして僕の頭をかるく叩く。


「要?またお節介引き受けたんだって?心配ないなんて言っても僕らが心配しないわけないんだから!」


「……そうだね、ありがと数馬」


「わかればいいけど」


腰に手を当ててため息をつくと、どさりと落ちてきた黒忍者に数馬は目を向けた。黒忍者は首後ろを抑えて、うめきながら息絶え絶えに数馬を睨みつける。


「ぐっ……ぁあ…貴様……私の首になにを……」


「ええまぁ。最近、針にハマっててね。なかなか便利なんだよ?先端に痺れ薬を塗ったり、とかさ」


「……貴様らァ…!」


首の後ろから心臓が動くたび痛みが体中を這い回る。どこか動かそうとすればそこを押さえつけるように、痛いくらいの痺れが襲う。


「さすがだなぁみんな。僕はまだまだ修行が足りないね」


「修行もなにもないだろ。事情聞いた途端にすっとんで行ったんだって?忍者たるもの準備を怠るなって」


「痛いとこつかないでよ藤内」


「要は無鉄砲だな!」


「お前が言うな!誰が探しに行くと思ってんだ!」


「そーいえば孫兵はどうしたんだよ数馬」


「三之助、僕はこっち!孫兵はなんかねぇ……ジュンコがどうのこうのって。途中穴に落ちたから聞こえなかったんだよね」


「あーすまん。後ろちゃんと見てなかった」


「気にしないで藤内。慣れてるから」


このやり取り、懐かしいなぁ。こんな状況だというのに、みんなが集まれば表情を崩してしまうくらい安心できる。


いつだって、僕たち互いに、まるで手を繋いでいるみたいに。誰かが転びそうになったら、手を引いて。


「この餓鬼どもォオ!!全員死に晒せァアアアァ!!!」


プライドをズタズタに切り刻まれた黒忍者は、懐から焙烙火矢を無造作に取り出し点火した。


「まだ動けっ……」


強めの痺れ薬だったのだろう。数馬が息を飲んで驚く。周りの部下忍者はぴくりとも動かない。意地だけが黒忍者を動かしているように見えた。


「仲良く吹っ飛べァアァ!!!!!」


焙烙火矢を振り上げ、黒忍者が地面に勢いよく叩きつけられそうになる刹那。


ヒュウ


と、一陣の風が音も無く、鋭く吹き。その風と共に現れた僕の親友は、火のついた導火線を切り取るように横一文字に小刀を振るった。


「……あ」


「ジュンコ」


声が出ない黒忍者に、僕の親友は静かに最愛のペットの名前を呼ぶ。ぽとりと焙烙火矢は地面に落ちて、小刀を鞘に収めるとため息をついて言葉を零す。


「ジュンコ、そんなところに居たのか」


「え……」


「噛め」


カプリ


黒忍者の首筋に綺麗な赤色の蛇が噛みつき、今度こそ黒忍者は前のめりにどうっと倒れた。


「孫兵……くそ、かっこいいな…」


「なんで悔しがってんだよ三之助」


「三之助は切り込み隊長だっただろ!ずるいぞ!」


「藤内なんか僕を置いていくし」


「なっ……謝っただろ!根に持ってるのか数馬!」


「要」


「……はは、ごめん、孫兵」


孫兵はしっかりと、僕の手を引いてくれて。僕は孫兵の、みんなの手を離さないと誓った。


「ったく!だいたい今日は久し振りにみんなでの酒盛りなのに、要が来ないからだぞ!」


「そうだそうだ要のやろう!俺は休日出勤しない男だぞ!」


「俺がいなきゃ任務先にも辿り着けない奴らがよく言うよなぁ?なぁ?」


「「いだだだだだだ!!」」


「そんなことよりはやく要の家に行こう。せっかく私が美味しい酒もってきたんだし」


「藤内の選ぶものってセンスいいから期待だなぁ。あ、そうだ最近猫を拾ってさ!」


「お前この間も犬を拾ったとか言ってなかったか?」


「違うんだよ孫兵、あの子は隣の人から預かってただけで」


そんな和やかな時間を引き裂くようにキィン、と鋭いなにかが頬を掠めて、鉄の臭いとピリッとした痛みが僕の頬に走った。


「……あ、忘れてた」


「追っ手!?まだ何人か忍者いるぞ!?」


作兵衛の叫び声に、僕たちは一斉に踵を返して走り出した。


「ほんっとに何やってんだよ!!」


「いやだって……久し振りにみんなに会えて嬉しくて」


「なら仕事を入れるな!」


久しぶり、全部久しぶりなんだ。


作兵衛や数馬にこうして怒鳴られるのも、左門や三之助と笑いあうのも、藤内に心配をかけられるのも、


"要"


って、孫兵に名前を呼ばれて、呆れられるのも。


「まぁまぁ、このまま走って要ん家まで行こうぜ!」


三之助が手裏剣を放ち


「要の家はこっちだな!」

左門が手裏剣を放ち


「おいばか!みんなが走ってる方向に走れ!」


作兵衛が手裏剣を放ち


「敵さんも本気だなぁ」


藤内が手裏剣を放ち


「お、命中」


数馬が手裏剣を放ち


「要」


「ん?」


「あんまり、心配かけさすなよ」


「……うん、ありがとう」


みんなの手裏剣が、くるくるとまるで競争をしているように並んで進み、やがて僕たちは黒に飲まれ、静かに消えた。



変わらないもの
ぼくたち







匿名さま、リクエスト企画参加ありがとうございました!

三年成長バトルor回想とのリクエストでしたが、如何だったでしょうか?私の勝手な妄想や願望が多々含まれている点はどうかご了承くださいませ……すみません。

さて成長した三年です。
トップバッター三之助→七松無自覚に似ていく。怪力馬鹿。体術に長ける。よく任務先を間違えるため、送り迎えがついています(作兵衛)

左門→とにかくすばしっこい。スピードは三年のなかで一番。スピードからの重い武器で敵をフルボ……失礼。倒す。10キロそろばんが一番手になじむようです。よく任務先をry

作兵衛→食満から鉄双節棍を受け継ぎ得意武器としていますが、よく三之助と組み手をしていたので体術も長けています。相変わらず面倒見が良く、卒業後も迷子を放っておけず、面倒を見ているようです。

藤内→弓矢は私の個人的な趣味ですすみません。どっちかっていうと藤内は司令塔になっている感じが強そうです。だが思い出せ藤内。お前の手持ちには迷子と不運とお節介がいるぞ。

数馬→相変わらず不運ですが、みんなを心配する保健委員会なのは変わりありません。最近は針治療にハマっているようです。たまに保健委員会で集まってお茶をするのが楽しみなんだとか。

孫兵→ジュンコ連れて任務行くな。生き物を味方につけ、奇抜な忍者として名を馳せているようです。小刀は竹谷にもらったもの。まれに要くん家に顔を出しては、ご飯を食べているご様子。

要くんも縄標を長次から受け継ぎ、得意武器としています。相も変わらずあちこちお節介して回っては、みんなに心配をかけているようです。

はいすみません私妄想乙。
他にもいろいろ盛り込みたい設定があったのですが、自重しました。ぬぅ。

リクエストありがとうございました!


ヤマネコ



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