当たり前のこと

「作兵衛ー」


「…」


「作兵衛ー」


「…」


返事がない。ただの屍のようだ。いきなり僕と孫兵の部屋にやってきてコロンと床に転がった作兵衛を眺めながら、僕はため息をついた。


「作兵衛さん?どうしたの?話してくれなきゃわかんないよ」


「…」


「孫兵なら委員会だし、ここに居るのは僕だけだから。ね?」


「…」


うつ伏せになったまま沈黙を続ける作兵衛の頭を撫でながら話すが、作兵衛は顔を上げない。


「さーく、作兵衛」


「…なぁ…要」


あ、喋った。
でも顔は上げない作兵衛に苦笑しながら、「なに?」と相槌を打つ。


「俺って、なんだと思う…?」


「え」


「毎日毎日毎日毎日あいつらのお守りして、委員会の後輩の面倒みて、道がわからなくなったら止まってれば良いものをなんでかあいつらは走ってどっかに行っちまうし、しんべヱと喜三太は立花仙蔵先輩と組んで俺を消そうとしてるし数馬は不運だし数馬は不運だしあああああ」


「うんわかった。ストレスが溜まってるんだね」


おおよしよしとあやすように背中をさすってやれば、うわぁああと作兵衛が僕に飛びつく。


「なんでいつまで経ってもあいつらはぁあぁああ」


「うーんよしよし。ち、力強いんだね、作兵衛」


「え?あ、ああ、わりぃ、」


「んーそうだなぁ。よし、僕が作兵衛を癒やしてあげよう!」


「は?」


ぱちくりと作兵衛が目を丸くした。僕はそれにやる気たっぷりに応える。


「なにかしてほしいことない?僕、なんでもするよ!」


「えー?なんでもって…」


ううんと考え込む作兵衛に僕は固く両手の拳を握ったまま、リクエストを待つ。


「急にそんなこと言われてもな……うーん…」


「あ、じゃあマッサージなんてどう?僕結構うまいんだよ!実家で働いてる人でうまい人がいて、その人に仕込まれてねー…よし布団敷こう」


いそいそと自分の押し入れから布団を引っ張り出し、作兵衛の横に敷く。作兵衛はキョトンとしながらも、苦笑しながら布団の上に座ってくれた。


「ありがとうな、要」


「? まだなにもしてないよ?さーうつ伏せになりなさい」


作兵衛は僕の布団にうつ伏せになると「じゃあ頼む」と目を閉じる。僕は作兵衛の背中に手を置いて、旅籠の人に教えてもらったようにぎゅっぎゅっと腰をほぐすように手を動かした。


「んーだいぶ疲れてるねー。かたいかたい」


「う、わぁ…お前本当に上手いな……寝そう」


「ちょっと痛くするよ?」


「え゛っ……う゛!?うぁ、ちょっ……」


「大丈夫大丈夫。この方がわりとスッキリするから。ここかな。あとね、ここも気持ち良いんだよ」


「ぬぐ……!?そこい゛だいっ……」


「重いもの持ったりするもんねぇ、用具委員会は。足もやるよ?」


「ちょおい!いきなり太股さわんなって!」


「うわー太股固いね。筋肉ついてる証拠だ。あ、くすぐったい?」


「やめ……くすぐったいくすぐったい!」


「まぁ慣れれば気持ち良いから」


「ぎゃっ……」


太股やらふくらはぎやらは揉みほぐせば軽くなるし、腰痛めたらなにも出来ないしね、と的確にツボをついて揉んでいく。


その間の作兵衛はくすぐったいようでひたすら笑っている始末だ。足のマッサージに差し掛かったときには気持ち良さそうに目を閉じていたが。


「んー……」


「あはは、やっぱり足のマッサージは気持ち良いよね。眠い?」


「んー……」


「でもだいぶ体ほぐれたと思うよ。ガチガチだったねー。作兵衛は毎日大変だ」


「んー……でもまぁ……俺が、好きでやってることだし……」


むにゃむにゃと眠たげな声で、作兵衛はぽつりぽつりと口を開く。


「あいつら探すのは大変だけど……俺、あいつらを嫌いな…わけじゃないから…」


「うん」


「委員会の仕事も……忍術の勉強も……大変だけどやっぱり…嫌いなわけじゃないし……」


「うん」


「大変でも……助けてくれるやつら、いるから…」


その言葉を吐き出すと、作兵衛はすぅと眠りに落ちてしまった。


「当たり前でしょ、作兵衛」


作兵衛が困ってたら、助けるよ。僕だけじゃなくて、孫兵も左門も三之助も藤内や数馬だって。当たり前でしょう。


「…っとと、作兵衛が風邪引いちゃう」


僕は押し入れから掛け布団をずるずる取り出して、作兵衛に掛けてやった。すぅすぅと無防備な表情で眠る作兵衛の前髪を顔から払って、僕ははた、と重要なことに気がついた。


「あ……僕の布団」

当たり前のこと
(ただい……ま?)(すぅすぅ)(ぐー)(要の布団で作兵衛が寝てて、僕の布団で要が寝ているわけだ。なるほど。おい!起きろこの馬鹿!)(うひゃ!?)(ぬっ…!?)



作兵衛を癒や……せているのかこれは!なららるら主でした。

作兵衛とららるら主とまったり書けたかなぁとちょっと不安ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。要くんは料理はできませんが(包丁が持てない)こういうのは得意なようです。ふむ。

さて、匿名様企画参加ありがとうございました!これからもららるら主をよろしくお願いします。


ヤマネコ



※ブラウザバックでお戻りください。




 



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -