好こそものの上手なれ

「要は私に戦輪を教わりにきたのだ!!貴様に石火矢を教わりにきたんじゃない!!」


「あ、あの…」


「ははぁん、成績優秀な学園のアイドルである私に石火矢を教わった方が要も為になると思うが?」


「お、お2人とも…」


「なにを言うか三木ヱ門!この才色兼備な滝夜叉丸が教えた方が、要の為になる!要の未来が決まると言っても良い!」


「ええっ…」


「言ったな滝夜叉丸」


「言ったさ三木ヱ門」


ばちばちと2人の間に火花が散る。僕はその中間でがっくりうなだれた。


☆☆☆


時は少しだけ前に遡る。昼休みなにをしようかと歩いていた僕は、後ろから明るい声で誰かに呼び止められた。


「要!」


「あ、滝夜叉丸先輩」


振り向くとなにやら楽しそうな滝夜叉丸先輩がにこにこと手を振っていた。


「いま時間はあるか?」


「はい、大丈夫ですよ」


「実はな、今日は要に戦輪を教えてやろうと思ってきたんだ。前に約束していただろう?」


「あっ本当ですか!?」


頷きながら滝夜叉丸先輩は指先で、どこからともなく取り出した戦輪をくるくる回し始める。


「ふふ、さてじゃあ移動しようか。この滝夜叉丸が誰もいなくて見渡しの良いところを見つけておいたから、そこにな!」


「(あ、場所探してくれたのかな)はい、ありがとうございます」


「なになに気にするな!さー付いて来い!」


くるくる戦輪を回しながら滝夜叉丸先輩は意気揚々と踵を返す。なにやらご機嫌だなぁと思いながら小走りで後を追うと、やがて木々の少ない見晴らしの良い場所についた。


「ふむ!ここが良いだろう」


「よろしくお願いします、滝夜叉丸先輩」


「待て待て要」


頭を下げる僕に、滝夜叉丸先輩は戦輪を持っていない方の手で前髪を払うと優美に微笑んだ。


「今日は私は要の戦輪の先生なのだから?滝夜叉丸先生、と呼んでもらいたい」


「先生…ですか?」


「うむ」


「そっかぁ、そうですね。よろしくお願いします、滝夜叉丸先生!」


「くぅ…!」


微笑みながら言えば、なにやら滝夜叉丸先輩…じゃなかった。滝夜叉丸先生はなにかをこらえるようにうずくまる。


「わ、わ、滝夜叉丸先生?具合が悪いんですか?」


「私は今まで忍たまをやってきたが…!私をこんなに素直に敬ったのはお前が初めてだ!要!」


「え?」


「周りのやつらったらみんな、食満先輩が格好いいとか、伊作先輩が優しくて素敵だとか、私の魅力をわからん奴らばっかりだ!全く!」


「たしかに、食満先輩も伊作先輩も格好良くて素敵な方だと思いますけれど…」


僕はしゃがみ込んでいる滝夜叉丸先生に目線を合わせて、にこりと微笑んだ。


「僕は滝夜叉丸先生も素敵な方だと思います。優しくて、実力もあって」


「や、優しい?私が?」


ぱちくりと驚いたように瞬きする滝夜叉丸先生に「はい」と強く頷く。


「僕に戦輪を教えてくださいますし、そのために時間を割いてくださいますから。とても優しくて、素敵な方です」


「……お、お前はどうしてそう、胸を高鳴らせるようなことをサラリと…」


「?」


「ま、まぁ良い。この滝夜叉丸、お前に誠心誠意!戦輪を教えよう!」


立ち上がって拳を突き上げる滝夜叉丸先生に、これまた唐突に鈴と声が掛かった。


「それはやめといた方が良いと思うが?」


「あ、田村先輩こんにちは。ユリコちゃんとお散歩ですか?」


「ああ、まぁな」


「なに!三木ヱ門!?」


ぐりんっとものすごい勢いで滝夜叉丸先生が振り向く。その様子をふふんと笑いながら田村先輩は言葉を続けた。


「滝夜叉丸に戦輪を教わるなんて、やめておいた方が良いぞ、要」


「え?」


「なにを言う三木ヱ門!この滝夜叉丸の他に誰が戦輪を教えると言うのだ!」


「お前に教わるくらいなら私が石火矢を教えてやる、と言っているんだよ」


「はぁ!?」


あれ、あれれ。
怪しい雲行きに僕はうろたえるが、お2人はそんな僕なんて気にせずにやりとりを続ける。


「要は私に戦輪を教わりにきたのだ!!貴様に石火矢を教わりにきたんじゃない!!」


「あ、あの…」


「ははぁん、成績優秀な学園のアイドルである私に石火矢を教わった方が要も為になると思うが?」


「お、お2人とも…」


「なにを言うか三木ヱ門!この才色兼備な滝夜叉丸が教えた方が、要の為になる!要の未来が決まると言っても良い!」


「ええっ…」


「言ったな滝夜叉丸」


「言ったさ三木ヱ門」


とまあ、こんな感じで冒頭に戻るわけで。まだ2人は睨み合いながら、ばちばちと火花を飛ばしている。


「あの…」


「大体、前からお前はいけ好かなかったんだ!学園のアイドルなどと自分で勝手に!」


「はぁん、事実なんだから仕方ないだろう」


「なにぃ!?」


「ふーんだ!」


お2人とも、僕にはすごく仲良さげに見えますが。


口には出さずに僕がおずおずと止めに入ろうとすれば、お2人はぐるんっと僕の方を向いて意気揚々とお互いに提案した。


「「お前はどう思う!」」


「え」


「ふむ、こういうのは第三者の意見もなかなか大事なのではないかと思ったのだ、ふと」


「ふと!?」


「真似をするな滝夜叉丸!で、どう思う、要。お前は私とこいつ、どちらが優れていると?」


「ええええ!?」


悲鳴を上げれば、滝夜叉丸先生と田村先輩はぐんっと僕に顔を近づけた。


「え…えっと…」


「私だろう?要」


田村三木ヱ門先輩は、会計委員会所属で過激な火器が好きな方だ。実技も教科も優秀な成績を持っていて、火器を使えば学園一…って自分で言ってた!というのを、左門に聞いたことがある。


実際に、僕が会計委員会の帳簿の整理を手伝ったときも、てきぱちと帳簿をつける田村先輩に感心したのを覚えている。


「あ、あの…」


「いやいや私だ!」


平滝夜叉丸先生は、体育委員会所属で教科の成績で四年生のなかでトップクラスなんだそうだ。例のごとく三之助がげっそりしながら教えてくれたことなんだけれど。


戦輪の腕は僕も知っているし、体育委員会でよく三之助がお世話になっているようだし、あの体育委員会について行っているのだからすごいと思う。


2人とも真面目で、頑張り屋さんだと思うのだ。


「なにを迷うことがある要!この学園のアイドル、田村三木ヱ門の圧倒的勝利だろうが!」


「えっ!?あ、あの」


「寝言は寝て言え三木ヱ門!誰が見たって私の大勝利だ!なぁ要!?」


「あ、あー…ええと…」


「なにぃ!?」


待って、待って。待ってよ。待ってってば!


どっちが一番だなんて。


「こんの…こうなったら勝負だ滝夜叉丸!」


「臨むところだ!」


決められない!


「ああもうどっちも優れている先輩ですから!!喧嘩しないでください!!」


力いっぱい声を上げれば、お互いの得意武器を構えたままぴたりと止まる2人。


「どっちも…」


「優れている…?」


「そうです!お2人とも真面目で努力家で好きな武器を磨き上げている立派な方だと思います!ですから、僕に一番は決められません!」


大声でまくし立てる僕に、2人ともぽかんとした顔で僕を見つめる。


「誰がなんと言おうと、お2人とも優秀な方です!僕はそう思います!良いですか!?」


「「は、はい…」」



好きこそものの上手なれ
(全く、邪魔が入ったが早速…)カーンカーン(あ、昼休みが…)(なにぃっ!?)


滝も三木も後輩の面倒を見れる、真面目な頑張り屋さんだと思います。"好きこそものの上手なれ"な2人を書けてすごく楽しかったです!

アミさま、リクエスト企画参加本当にありがとうございました!楽しんでいただけたら嬉しいです。

ヤマネコ



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