きみに悪戯02

「わぁ!忍術を見せていただけるんですか!」


「えっ…ええぇえ!?」


「ああ、昴さんに要の忍たまの様子を見てもらう。もちろん、作法委員会は全力で協力するぞ!」


その言葉に綾部先輩と一年生2人組は「おー!」と右手を元気良く天井に突き上げた。それに昴さんがパチパチと拍手を送る。


「いやっ、いやっ…なにが楽しいんですかそれは!?誰も得しないでしょう!?」


「損得だけで動く作法委員会と思っているのか要。兵太夫、伝七、化粧道具を用意しろ」


「えっ!?な、な、まさか女装ですか!?」


「まぁ一番手軽だし、ここは道具が揃ってるからねぇ」


あっけらかんと言う綾部先輩に、ぱくぱくと口を動かすが言葉は出てこない。いや、そうかもしれないけど!そうかもしれないけど!


「変装ですか!?わぁ、要さん変装が出来るんですか!すごいすごい」


「いや、変装…は変装ですけどね…」


「要、もう女装の授業はしたんだろう?」


「えー…えっと…ええ…まぁ、何度か」


立花先輩の問いかけに頷くと、兵太夫くんと伝七くんが化粧道具を持って戻ってきた。


「よし、昴さんは外へ。さー要、着物を選ぼう!」


「なんでちょっと楽しそうなんですか!?」


「ささー昴さん、廊下に座布団敷きますのでー」


「お茶もどうぞ」


「あ、ありがとう。ええと、兵太夫くんに伝七くん?」


「いえー。じゃあ僕たち、化粧道具広げなきゃならないのでー」


「なぁ、兵太夫、なんであんな楽しそうなんだ?立花先輩」


「あー要先輩、作法委員会にはあんまり顔出してくれないしねぇ。好きにできるから嬉しいんじゃないの?」


「ふーん…」


「えっ!?ちょ、い、いいですいいです!自分で着れま…うわあぁああ」


障子を一年生2人に閉めさせて、綾部先輩は有無言わさず僕の上着をべろんと脱がせた。


「立花せんぱーい、僕その桃色のが良いでーす」


「えー僕こっちの黄色の方が好きですー」


「センス無いなぁ、兵太夫。僕はこっちの赤いのが良いです!」


「ふむ、しかしお前たち、この黒が一番良いとは思わないのか?」


いやいや、えー、でもでも!と着物を手に持ったまま、言い合いが始まってしまった。失礼だけど作法委員会ってものすごくやることがないんじゃないだろうか。


「………みんな僕をなんだと思って」


はぁ、とため息をつき諦めて上着を畳む。すると兵太夫くんと伝七くんが2人でばばっと着物を広げて、見せてくれた。


「要先輩!」


「これに決定しましたー」


「…楽しそうだね」


「そりゃあ!僕、女装の授業って苦手で、化粧がうまく出来ないんですー。この機会にって」


「え。意外だね、兵太夫くん器用そうなのに」


兵太夫くんはカラクリが好きだ。僕もよく見せてもらうがあの細かく、複雑なものを作る兵太夫くんはきっとすごく器用なんだろうなと思っていた。


「化粧だけはどーも勝手がわかんないです」


「あーわかる。あれを自分の顔に塗るって変な感じするしね…伝七くんは得意?」


「そりゃあ、勉強して……はいるんですけど、やっぱり上手くいかないです…」


「そうだよねぇ」


「なにを和やかに談笑してるんだお前たちは、着物を着ろ要」


「はーい…」


「着せてあげるよ要」


「すみませんが丁重にお断りします綾部先輩…」


「なんで?」


「手付きが怪しいです」


「あれ」


僕は着物を手に取った。深い藍色の女物の着物は、清楚ながらどこか鈴とした雰囲気のものだった。授業で習った着付けを思い出しながら、淡々と着付けていく。


「ふむ、悪くないな」


「要先輩、不器用って聞きましたけど全然じゃないですかー」


「いや、これぐらいは出来るんだけどね…指先の細々したのはあんまり…裁縫とか」


立花先輩と兵太夫くんはふむふむとなにやら楽しそうに一緒に腕を組んでいる。仲良いな。


「どれ、化粧してやろう」


「え、あ、はい」


立花先輩に頬に右手を添えられ、ぎゅっと目を閉じる。そんなに力を入れなくても良いと苦笑が降ってきたので、目を開けると


「……あの、そんなに見られるとすごく恥ずかしいんですが」


「気にしないで要」


「いやすごく気になります近いです綾部先輩」


「要先輩、どんな女の子になるのかなぁ」


「そこはあんまり…期待しないでほしいかな…」


「動くな要、ずれる」


「あわっ、すみません」


真剣な表情で僕に化粧を施していく立花先輩にどんな表情をしたら良いかわからず、今度はきゅっと目を閉じて耐える。


というかすごい視線というか威圧感みたいなものを感じるんだけど…目を開けたら吹き出してしまいそうだから止めておこう。


「うん、よし。良いぞ」


ゆっくり目を開くと、立花先輩の左肩に綾部先輩、右肩に兵太夫くんと伝七くんがそれぞれ顔を覗かせていた。


「「「おおおー…」」」


「あの、すごい恥ずかしいのでなにも言わないでもらえますか…」


「何でですか!すっごい可愛いですよ要先輩!」


「ありがとう兵太夫くん嬉しくないけど…」


「く、唇が、色っぽくて素敵だと思います!」


「わぁ大人な褒め方!ありがとう伝七くん、嬉しく、ない、けど!」


「なんで要は女の子に生まれてこなかったんだろうね」


「何ですって綾部先輩?」


おいこらそれは聞き捨てならんですよ!と綾部先輩の方を向けば、綾部先輩はいつもの飄々としたポーカーフェイスでじっとこちらを見つめていた。


「可愛いね。ほっぺ食べても良いかな」


「やめてください綾部先輩に言われるとなんとなく抵抗出来ませんし、冗談に聞こえません」


「あーん」


「兵太夫くん、かわいらしいけども、や、め、て、!」


「ふむ、なかなか好評じゃないか要。そうだ、ただ女装するだけじゃつまらん」


ぽん、と立花先輩は手を打って微笑を浮かべたまま、さらりととんでもないことを口にした。


「その格好で藤内を口説き落としてみろ」







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