05

忍たまを養い隊!

※※※体育委員会のバヤイ


男女平等のこの時代。女が男より仕事が出来てなにがいけない?女が"男たち"を養ってなにが悪いの?



桜がこれでもかと咲き乱れた春の昼下がり。さらりと頬を撫でていく風は暖かいが、不快を感じないのは近くで流れる川が涼やかだからだろう。


ひときわ大きな桜の木の下でばさぁっとブルーシートが広げられた。桜の花びらが舞う。そのブルーシートを広げた本人は楽しそうに声を張り上げた。


「場所取りどんどーん!」


「兄さん!静かに場所取りして下さい!」


「滝兄ちゃん!三兄ちゃんが居ないです!」


「ええ!?しろ!お前手を繋いでたじゃないか!」


「ふわぁ…桜きれー」


「しろー!」


ぎゃあぎゃあと騒ぎながら弟たちに三之助を探してくるよう指示して、この家族の次男滝夜叉丸は準備しながら何故か桜の木に登り始めた兄をたしなめた。


「兄さん!本当に姉さん来るんですか!?」


「さっき来るって連絡あったぞ!ちょっと仕事したらすぐ駆けつけるって!あと滝ちゃん愛してるって!」


「なっ…!?なにを言ってるんですか!?」


「いいなー!滝ちゃんばっかり!要ちゃんは滝ちゃんばっかりだよなー!」


「うわああ!兄さん木の上で暴れないで!」


「要ちゃんは兄ちゃんのこと嫌いなのかなぁ!むー!」


「ほ、ほら兄さん!今朝はやく起きて姉さんと作ったんですよ!お弁当広げましょう!」


「お弁当!?よーし!三之助ー!しろべー!金吾ー!しゅーごー!」


木の上から声を張り上げて弟たちの名前を叫ぶ兄を、滝夜叉丸は呆れ顔で見上げる。そんなに易々と帰ってくるものか…特に三之助。


「ただいまー」


「三之助帰ってきた!?」


「しろ兄ちゃん!はやく歩いてよー!」


「うんー?あ、金吾花びらついてるー」


「おーう!みんな!いけいけどんどんで花見の準備だ!」


「「「はーい」」」


「なんだかな……あ!こら三之助!弁当つまむな!」


油断も隙もあったもんじゃない。弁当箱の中からウィンナーをつまみ食いしようとしていた三之助の手をピシャリと叩いて、さっさと紙コップや割り箸やらを並べる。


「シロ兄ちゃん?なにそれ?」


「桜の花びらの首飾りー。金吾にも作ってあげる?」


「金吾!シロ!でっかい木の棒みつけた!チャンバラしよう!」


「こらー!お前ら遊んでないで手伝え…あー!兄さん!なに食べてるんですか!」


「このしゃけむすび中々だぞ、滝夜叉丸」


もぐもぐと両手におむすびを持ちながらすでに花見をスタートさせている兄さんに、木の棒を持ってチャンバラを始めるちびたち。そんな中、上機嫌に私を呼ぶ声がした。


「滝ちゃーん」


「要ちゃん!やっと来たな!遅いぞ!」


「そういう兄さんはもう食べてんのね…」


「要姉ちゃん!」


「要ちゃん首飾りあげるー!」


「おーおー。あんたらもエンジョイしてるわねー。首飾りは貰うけどその木の棒は何」


「チャンバラしてたんだよ」


「うん。三之助、姉ちゃんはこっちね。あんたが話しかけてんの桜の木」


「あれ」


桜の木に向かって得意気に木の棒を見せる三之助を呆れ顔であしらい、シロから首飾りを受け取る。すると、ぐんっと腰に纏わりつく重み。


「要ちゃーん!」


「こへ兄ちゃん、ちゃんと手洗ってから食べてんの?おむすび」


「ぎくっ」


「ぎくっじゃないよ、ぎくっじゃ」


金吾が「はい!」とウェットティッシュをこへ兄ちゃんやシロに配る。三之助も木の棒を置いてブルーシートに腰を降ろした。


「よーし、じゃあ…」


ドサッと私が手に持っていたビニール袋をシートの上に置くと、いの一番でこへ兄ちゃんがそれに反応した。


「お酒ー!」


「けー!」


「はい、ストップ三之助ー。君はオレンジジュースねー」


「ちっ」


「お姉ちゃんに向かって舌打ちとは何事かな三之助?」


「いだだだだ!」


三之助にアイアンクローに決めつつ、シロ金吾ーズに缶ジュースを配る。林檎ジュースとオレンジジュースどっちが良い?と金吾にゆるゆる笑いながら問うシロ。


「ぐびぐびどんどーん!」


「あっ!?こらこへ兄ちゃん!まだ乾杯言ってないでしょうが!」


「金吾、かんぱーい」


「かんぱーい」


「しろ、おむすび取って」


「あははは喰え喰えお前ら!あははは!」


「あんたらね…」


お酒を水をのようにがばがば飲むこへ兄ちゃんは、こうなると手が付けられない。弟たちももっくもっくと卵焼きやらおむすびやらを口に入れ始める。


「もー…まとまりがあるんだか無いんだか…」


「姉さん、あ、あの」


「なぁに?滝ちゃん」


「これ…」


おずおずと滝ちゃんが差し出したのは桜餅だった。白い包み紙にちょこんと何個か乗った桜餅は既製品とは違って、どれも形が違う。少し歪だ。


「わー美味しそう!どうしたの?」


「学校の調理実習で…ど、どうせならお花見のときに食べたいなぁと思って」


滝ちゃんは照れ笑いを浮かべて更に私に桜餅を差し出す。


「姉さんに食べてほしくて」


「食べる食べる滝ちゃんごと!」


「えっ!?わあああっ」


がばっと滝ちゃんを抱きしめれば、戸惑ったような滝ちゃんの声。目敏い三之助がサッと滝ちゃんから桜餅を取り上げて避難させた。


「あー!ずるいぞ滝ちゃん!」


すでに酔いが回っているこへ兄ちゃんが赤い顔で、ぶんぶんと人差し指を振る。そしてなにを考えているのかもぐもぐとお弁当を食べているシロと金吾を小脇に抱えた。


「え?」


「に、兄さん!?やめてくださいよ!?」


なにかを悟ったらしい滝ちゃんが血の気の引いた顔でぶんぶん首を振る。だが、暴君は止まらない。


「いけいけどんどーん!」


「ぎゃあああっ」


「うぶっ」


後ろから圧迫される私と押し倒されて潰れる滝ちゃん。ちび2人も「ひゃあああ」と甲高い悲鳴を上げた。


「みんなでこんなにぎゅーってするのは、久しぶりだな!」


舞い上がる桜のなかでこへ兄ちゃんが笑う。もみくちゃになる私たちを笑うかのように、桜は高く高く舞い上がり、ひらひらと空を桃色に染めた。


「うん、なかよし」


デジタルカメラを構えてパシャリ、と私たちを写真に撮る三之助に、私はなんだかおかしくなってこへ兄ちゃんと笑い声を上げた。



体育委員会を養い隊!
(三之助も来い!)(こへ兄ちゃん、缶ビールひっくり返してるけど)(気にするな!来い来い!)(滝兄ちゃん死んでるけど)(気にするな!)(それは気にしよう!滝ちゃんしっかり!)

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