さようなら、と手を
「行って来ます」
「…っぐす…気をつけてくださいねっ…」
「…昴さん」
なぜか父さん母さんより、昴さんが涙でぐしゃぐしゃになっていた。母さんは苦笑して昴さんの背中をさすっている。
「休みには帰ってくるんでしょう?体には気をつけて」
「はい、母さん」
「決して逃げるな要。要は助けるのが上手だ。助けてあげなさい」
「はい」
「…要さんっ」
「はい、昴さん」
ぎゅ、と両手を握られて僕は真っ直ぐ昴さんをみつめる。昴さんは一瞬うぐぅ、と言葉に詰まったあと、口を開いた。
「頑張り、ましょうね!」
「はい!」
そうして、僕は旅籠で働いている人達に見送られ、忍術学園への一歩を踏み出した。
×××××××××
「案外遠いんだな…忍術学園って…」
帰省のとき少し大変かもしれないな、と眉をひそめて、歩を進めているとなにか大声が後ろから走ってきた。
「うぅーこっちかぁ!」
「うわっ!?」
振り向いたらもうそいつは目と鼻の先の距離にいて、どかんと見事に正面衝突してしまった。
「いたた…」
「ぬぁー!すまん!怪我ないか!?」
「大丈夫で…ぇえ!?」
顔を上げて笑ってみせれば、衝突したその男の子の額が血だらけだった。
「ん?どうした」
「どうしたじゃありませんよ!血!血!」
「え?わあぁ!?血が出ている!?」
「そ、そこに座ってください!」
その男の子を切り株に座らせ、あわあわと手拭いを水筒の水でしめらせて、応急処置を施していく。
「着物は汚れてないですか?」
「ああ、着物は平気だ!でも、君の手拭いが汚れてしまったぞ!」
「え?ああ、いいですよ。他にも持ってきてますから」
「きみ、いいやつだな!」
「は?」
「僕は左門!神崎 左門だ!きみはなんというんだ?」
「あ、ああ、一ノ瀬。一ノ瀬 要です」
「要か!よろしくな!」
に、と笑った左門くんに僕も笑って返す。
「そういえば、左門くんはなんであんなに走ってたんですか?」
「左門でいい!」
「え。ああ、左門」
「うん!実はな!道に迷っていたんだ!」
「ああ、道に…どこに行くんですか?」
「うん!忍術がくえ…あっ」
「忍術学園?」
おや奇遇。生徒さんだったのか。
「ぬああああしまったああ!忍術学園のことは他の人に話しちゃいけないのに!」
「ああ、うん、はい」
思っきり今話してるんだけど…まぁいっか。僕は首を振って左門を安心させるように微笑む。
「僕も忍術学園に行くところだから、大丈夫ですよ」
「えっ。ほんとか!?」
「はい」
「そうか!僕もなんだ!改めてよろしくな要!」
「こちらこそ」
「よし!血も止まったし、行くぞ!忍術学園は…こっちだ!」
「え?」
むんず、と腕を掴まれ僕がさっき進んでいた方向とは逆に左門が走り出す。
「ち、ちょっと左門!忍術学園はっ…ぎゃくっ…」
「こっちだこっちだこっちだこっちだー!」
「左門ー!?」
いきなりの運動に息が切れる。僕の声は左門に届いていないようで、左門は僕が歩いてきた道を逆方向に一直線に走っていく。
「さ、さもっ…」
「見つけたァ!」
「!」
前からそんな声がして、顔を上げれば赤毛の男の子が鬼の形相で僕たちを睨みつけていた。
「止まれ神崎 左門!」
「うわぁ!?」
「えっ!?」
赤毛の男の子はなにをしたのか、反転する視界ですぐわかった。左門の足に手拭いを引っ掛けたのだ。
「いたた…なにするんだ!危ないだろう!」
「うるせぇ!何回目だと思ってやがる!」
「あれ…?富松 作兵衛?」
「あれ…?じゃねぇえ!あっちがいなくなったらこっちがいなくなりやがって!」
「仕方ないだろう。道に迷っていたんだから」
「迷ってんならそこから動くんじゃねぇよ!お前が動くからなかなか見つからないんだ!」
ぎゃあぎゃあと言い合いを始める2人に唖然としていると、手が視界に入った。見上げるとまた別の男の子が僕に手を伸ばしている。
「平気か?」
「あ、ありがとうございます…すみません」
「大丈夫。神崎 左門と一緒にいたってことは、お前も?」
「あ、じゃあ君も?」
「うん。俺、次屋 三之助。よろしく」
「どうも、こちらこそ」
横ですごい言い合いしてるのになんでこの人はこんなマイペースなんだろう…と考えながら頭を下げる。
「じゃあ行くか」
「えっ。2人はいいんですか?」
「うん。さっきからずっとなんだ。だからなかなか学園に着かなくて」
「あー…なるほど」
「うん。こっちだ」
「えっ?」
そっちはどうみたって森のなかなんだけど次屋くんは気にせず僕の手をひいてスタスタ森に入っていく。
「あの、次屋くんそっち…」
「ああああ!こら次屋 三之助!動くんじゃねぇ!」
たしかに、これでは忍術学園には辿り着けないかも…。僕は少し考えて、思いついたように手を打った。
→
まだ続きます。
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