Mのおはなし
ぽかぽかと、金吾くんが剣の修行に身が入らなくなってしまうくらい気持ちがよい日差しの午後。僕は縁側に腰掛けてお茶をのんでいた。
足元にはここの軒下に住み着いている、茶色の野良猫がごろごろと僕の足元にすり寄っている。
今日は午後は先生たちの会議に回されるらしく、せっかくなのでと召集をかける委員会が多かったのだが、我が図書委員会は先日書庫掃除をしたばっかりだったので当番以外は自由となった。
「はーぁ」
足元の猫を抱き上げ膝にのせると、にゃぁんと背を膝にこすりつけ始めた。あれれ。
「にゃん」
にゃぁん
「にゃー」
にゃぅ
あまりに可愛らしい仕草に、僕の頬が緩む。肉球をもにもにと触らせてもらいながら猫の鳴き真似、そんなことを続けていると、くすくすと笑い声が耳に届いた。
「猫、好きなの?要くん」
「あれ?利吉さん」
顔を上げると、ひらひらと手を振りながら利吉さんがこちらに近づいてきた。
「山田先生にご用時ですか?」
「ああ。でも、なんだか会議みたいだね。洗濯物を届けに来たんだけど」
「あ、急ぎのご用時があるなら、僕渡しておきますよ」
いつものお節介が無意識に前に出る。利吉さんは相変わらずだねぇ、と笑って僕の隣に腰掛けた。
「このあとは特に仕事もないから。ここで待たせてもらってもいいかな」
「はい、もちろん」
にゃぁんと膝の猫も鳴いた。利吉さんは風呂敷を傍らに置いて、猫の顎をなでる。
「かわいいね」
「そうですね!この猫、ここの軒下に住みついてるんです」
「そうなんだ」
「もともと生物委員会の竹谷先輩が怪我してるのを連れてきた猫なんですよー。人懐っこいんです」
言いながら利吉さんに猫を渡すと、ごろごろと喉を鳴らしながら利吉さんの膝に転がる。
「本当だ」
「でしょう?あ、僕お茶いれてきますね」
立ち上がって部屋に湯飲みを取りに行くと、利吉さんの笑い声がまたくすくすと上がった。
「気が利くなぁ。要くんはいいお嫁さんになるね?」
「で、できればお婿さんになりたいです……」
苦笑しながら湯飲みを利吉さんの前に置く。そういえば、と僕はふと口をひらいた。
「そういえば、利吉さんってご結婚なさっているんですか?」
優雅にお茶を口にした利吉さんがゴフッと吹き出した。あれ?
「げほっ…!と、突然だね」
「ふと、です」
「う、うーん。そうだね。まだ結婚は考えていないかなぁ」
「でも、利吉さんってかっこいいですし、素敵ですし、その気になればすぐ良い奥さんと結婚できますよね!」
「………そうかな」
「そうですよ!」
いいなぁ、僕も利吉さんみたいになりたいなぁ。かっこよくて、仕事もできて、優しいし、冷静だし、すごいなぁ。
「憧れちゃいますねー」
「私が結婚したら、要くんみたいな子供がほしいなぁ」
「えっ」
にこ、と笑って利吉さんが僕の顔をのぞきこむ。予想もしなかったことを言われてしまった僕は、ぴたりと固まった。
「うんと可愛がるよ?」
「え、あ、僕ですか?」
「うん。要くんは可愛いからね」
「男が可愛いっていうのはどうなんでしょう……」
「ああ、要くんが息子だったら、私はぜったい子離れ出来ない気がするなぁ」
腕を組み真剣に考え込む利吉さんに、僕はあわあわと腕を振る。
「い、いや!僕なんかが息子じゃ!だめですよ!」
「そう?じゃあ弟かな」
「どこに転ぶんですか!この話!」
「要くんが弟だったら、すっごく甘やかしちゃいそうだなぁ。要くん、反抗期にはならないでね?兄上、泣くから」
「利吉さん!」
明らかにふざけている利吉さんに僕は真っ赤になって怒鳴る。それさえもけらけらと笑いながら受け流して、膝の猫をおろした。
「ちょっと兄上って言ってみて?要くん」
「えっ……ええっ!?」
「試し試し。ああ、それとも、私みたいな兄上じゃ嫌かなぁ」
「そ、!それは、利吉さんみたいな兄上がいたら嬉しいですけど……」
「本当?僕も要くんみたいな弟がいてくれたら、嬉しいよ」
「う、うーん……」
「要くん?」
「あー……その、」
「返事してみて?」
にこにこと微笑む利吉さんからは、拒否を許さない何かが漂っていた。僕は利吉さんから少し視線を外しつつ、諦めて小さく口をあける。
「あ……あにうえ……」
「…………」
無言が返ってきた。
僕の顔にかぁあと血が集まる。
「あああもう!だから嫌だって言ったんですよ!!」
「いや待って?想像以上だったかなちょっと。要くん、もう一回」
「嫌です!」
「兄上のお願い聞いて?」
「兄上じゃないです!」
「ははは」
利吉さんは相変わらずの爽やかな笑顔で、僕の頬をつまんだ。
「要くんは可愛いね、ぜったい良いお嫁さんになるよ」
※
本当は土井先生と結婚について話す回だったのに。
私が出来るイケメンを書くともれなく変態になる。ふひひっふひっひ
MはMarriage(結婚)のM
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