疾風

「……ありがとう」


「いえ!」


ひそかに書庫の整理をしていた中在家先輩を見かけたのは昼休みのことだ。最近忙しくて書庫の掃除が満足にできなかったのが気になっていたらしい。


僕は例のごとく中在家先輩に手を貸して、書庫の本を虫干しから回収していた。


「中在家先輩こそ、最近忙しいと仰ってましたよね?疲れてないですか?僕、あとやりますよ!」


「大丈夫、……本に触っていた方が落ち着く」


なんとも中在家先輩らしい。


よいしょ、と本を書庫に運び、埃臭かった書庫も風を通したのでだいぶ綺麗になった。満足げな僕と中在家先輩。


「少し、休憩……」


「そうですね」


書庫の前の石の階段に腰を下ろす中在家先輩に僕も腰を下ろそうとすると、するりと脇から腕を通され軽く体が浮いた。


「わっ」


「………」


すとっと収まったのは中在家先輩の軽く胡座のかかれた膝の上だった。


「……う、あの、中在家先輩?僕、もう三年生ですよ?い、一年生じゃないんですから」


「……」


返事はなく、代わりに耳元でぱらりと僕の髪が解け、肩に落ちた。


「中在家先輩?」


「結い直す…」


「え?あ、ありがとうございます…?」


「……」


髪の毛が引っ張られる感覚と中在家先輩の指が僕の髪を優しく伝う。


「すこし、髪が伸びたな……」


「そうですか?」


自分の前髪を摘んでみる。相変わらずの癖っ毛だ。いつも髪を結い上げると首に触ってくすぐったいのだ。


「……」


「あ、あの?中在家先輩?」


「ん」


ふわふわと中在家先輩の指先が、僕の髪をさぐるように動く。撫でられているような、マッサージされているような感覚に、僕は戸惑いながらもされるがままになった。


「今日は暖かいな……要……」


「そうですね……風も気持ち良いです……」


目をとじると、中在家先輩は僕の髪をさぐるのを止めて、髪を結い始めた。


あー眠くなっちゃうよ、こういい天気だと。


うとうととし始めた僕の耳元に、くす、と笑い声が落ちた気がして、そして、


「いけどーーーん!!!」


という声と共にドッという衝撃が、いきなり僕の全身を襲った。


「ぐえっ……!?」


「こんなところでなにしてるんだー?ちょーじっ」


「小平太……」


僕が間に挟まっているせいで中在家先輩の背まで手が回らないが、七松先輩は構わず僕ごとぎゅうぎゅう抱きしめる。


「な、ゃっ……にゃなまつせんっ……」


「おー?猫がいるぞー」


楽しそうに笑いながら、僕を撫で回しはじめる七松先輩に開いた口がむっと閉じる。


「可愛い猫だなーな、要」


「やめてくださいよ!」


「要は体育委員会にぜんっぜん来ないのに、伊作や留三郎のとこには手伝いに言ってるだろー!なんで体育委員会にこないのだ!」


「いや、僕は本来図書委員会で……」


「細かいことは気にするな!」


からから笑う七松先輩に僕はため息をついて抵抗する力を抜く。


「要すこし細すぎるんじゃないか?いけいけどんどんで稽古をつけてやるか!?」


「そーですか…?」


触られる腕をされるがままにしながら僕が首をかしげる。後ろに中在家先輩が「小平太…」と止めさせようとした刹那、七松先輩は僕の脇に手をまわしスルッと抱き上げた。


「え」


「よーし今から委員会活動だ!いけいけどんどんで行こう要!」


「ええええっ!?いいですいいですっ!僕は遠慮します!」


「いっくぞー!」


「中在家せんぱああああああああああああい!!」


軽々と七松先輩に担がれながらも、必死に伸ばした僕の両手はむなしく空をかいた。視界のポカンとした表情の中在家先輩がどんどん小さくなって、ついには見えなくなった。



続きます。

(せっかく要とゆっくりしていたのに)

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