世界に声をあげて

僕は、特殊な人間です。


は、と意識が僕に戻った瞬間。首に顔に背中にお腹に手に足に。全身に。水の感触を感じた。


「…!」


水というには暖か過ぎるそれに、僕は戸惑いを隠せなかった。水の中なのに息ができる、と気がついたときにはもう、僕の頭はパニックに陥っていた。


めちゃくちゃに足を動かすと、なにか柔らかく固いものに当たる。その得体の知れないものが気持ち悪くて気持ち悪くて、僕は声も上げられないままもがいた。


"××××××"


「…?」


僕の動きを止めたのは"振動"だった。その振動は、全身に染み込むように聞こえる。


「(人の話し声だ)」


"ふふ"
"げんきな子ね"


そう振動が聞こえる。
僕はもがくのを止めた。その振動が優しかったのと、ここがどこなのか何となく理解したからだった。


「(仕組みはわかっていたけど…すっごい複雑な気分)」


まだ流れてくる振動に、僕はうんざりしたように言葉を返す。


わかったよ。
元気に産まれてきてあげるからさ。そう毎日声をかけないでよ。


…恥ずかしいから。


それから、僕の真っ暗な世界に小さな光が見えて。もがくようにそれにすがりつけば、歪んだ世界が僕を迎えた。


「元気な男の子ですよ」


僕はやっとあの退屈で狭まかった中から抜け出せたことに喜びの声を上げたのだが、世間はそれを"産声"と呼ぶらしい。

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