生物委員会の図書委員
どうしよう、どうしたら。
誰もが口を噤み、焦りに焦燥した表情で血まみれのジュンコを見つめていた。
佐武虎若は考える。
竹谷先輩たちを見つけるのは大変でも、竹谷先輩たちに見つけてもらうのは簡単ではないのか。のろしを使えば、ああでも、いま誰か火種を持っているのだろうか。
上ノ島一平は考える。
やはり先輩たちを見つけなければ駄目だ。でもここにジュンコを置いて行くわけにはいかない。
初島孫次郎は考える。
ジュンコが、このままではジュンコが、僕が、僕が代わってあげられたら。はやく、はやく、先輩を
そして、夢前三治郎は
「あー!!!」
「うわっ!?なんだよ三治郎!いきなり!」
隣で俯いていた一平が弾けるように顔を上げた。三治郎は興奮に満ちた表情でまくし立てる。
「薬草!この山、傷に効く良い薬草があるんだ!それをすり潰して傷口に塗れば血が止まるって!」
「たしかなの!?」
孫次郎が悲痛な叫び声を上げたが、三治郎はそんな孫次郎の肩をたたいて大きく頷いた。
「前、乱太郎に聞いたことがあるんだよ!覚えてて良かった!その薬草、この山にたくさん生えてるんだ!名前は忘れたけど、形と色を覚えてる!」
「よし、わかった!こうしよう。孫次郎はここで待機。ジュンコを頼む。僕と三治郎と一平はその薬草探し!誰か火種を持ってないか!」
「あ、僕、!」
「よし孫次郎、それでのろしを上げてくれ。先輩たちがうまく気がついてくれたら上々!」
「大丈夫、孫次郎。のろしに加えて、先輩方も見つけてきてやるからさ!」
一平が勢いづいた表情を浮かべて、孫次郎の肩を叩く。虎若と三治郎も大きく頷いて、孫次郎の顔に少しだけ笑顔が灯った。
「信じて待ってる。ぜったい、ジュンコを助けて」
「「「任せとけ!」」」
三人は頷いて走り出した。
孫次郎はジュンコを優しく地面に下ろすと、火種を取り出して強く握る。
大丈夫、みんなは絶対に薬草を見つけてきてくれる。
ジュンコ、ジュンコ、死なないで。孫兵先輩のところに、はやく帰ろう。
※※※
「おーい!孫兵!」
「!」
草むらを血眼になって探していた伊賀崎孫兵は、自分を呼ぶ先輩の声に弾けるように顔を上げた。
「竹谷先輩!見つかったんですか!」
「え、あ、いや見つかったわけじゃないんだが。さっきから三治郎たちの声が聞こえないんだ」
「え?」
言われ耳を澄ます。本当だ、確かに一年生たちの声が聞こえない。捜索は声が聞こえる範囲までと言ったのに。
「本当だ。聞こえませんね……どこに行ったんでしょうか……」
「走って遠くまで行ったのかなぁ。でも孫次郎と一平も一緒だし、4人一気にいなくなるなんて……」
「…あ!竹谷先輩あれ!」
孫兵の指差す方向に、ぼそぼそと煙が見えた。のろしだ。竹谷がさらに眉をひそめる。
「なんだろう」
「行ってみますか…?一年生たちかもしれないし」
「そうだな、行こう」
※※※
「あれ、乱太郎。なにその薬草!すごいね」
「あーこれ?保健委員会で採ってきたやつだよ。特徴的だよねぇ、これ止血に優れた薬草でさ。たくさんあっても困らないからって」
「へぇ、そうなんだ」
大丈夫、覚えてる。
あの特徴的な濃い緑色。どこ、どこに、たしかにこの山にあるはずなんだ。
「あったか三治郎!」
「無い!」
「あればすぐわかるのか!?」
「わかるよ!すごーく特徴的な形なんだから!」
あるはずなんだ、この山に。はやくはやく、どこにどこにどこに!
「三治郎、虎若!あれじゃないのか!」
「「!」」
少し離れを探していた一平の声に、三治郎と虎若は慌てて駆け寄る。一平の指差す先を見た三治郎は、パシッと片手で顔面を覆った。
「うっそー……」
「あれなの!間違いない!?」
「間違いない。ナイス一平。でも……」
「この崖降りてくの……?」
虎若が頬をひきつらせながら、崖を覗き込む。もう一度、三治郎が身を乗り出して確認するが、あの薬草で間違いない。距離的には三治郎の身長4人分といったところ。
「行けるようで行けないような距離だなぁ……」
「どうやって降りる?」
三治郎と虎若が眉をひそめ、一平を挟んで顔を見合わせた。すると一平がすくっと立ち上がり、得意げな笑顔を見せる。
「ふふん、心配無い。僕が鍵縄を持ってきている」
「おおー!!!」
「さっすがい組!」
当然といった表情で一平が鍵縄を取り出し、サッと三治郎に渡した。
「えっ」
「いや、実は僕………あー…鍵縄の成績が悪くて……」
バツの悪そうな顔をする一平に虎若と三治郎は「さすがい組……」と声を揃える。
「わかったよ、僕が降りる。虎若は腕っぷしが強いし、一平と引き上げる方を頼むよ」
「任せろ」
「気をつけろよ、三治郎」
「うん」
地面に鍵縄を深く刺して、抜けないか引っ張る。心配なさそうだ。三治郎はそっと崖の外へ足を降ろした。
※※※
「しまったー……山の場所は知ってるけど、よく考えたら山のどこにいるかなんてわからないじゃん……」
恐らく孫兵のものであるお弁当を風呂敷に包み、背中に背負いながら僕は山のなかを右往左往していた。
まずい、計画性のカケラも無い。
「あー……どうしよう。まぁでも、たぶん頂上まで登るだろうし、頂上を目指せば良いかなぁ」
参ったなぁと途方に暮れながらも、ひとまずは頂上を目指すことにした。この山は何度か来たことがある、ちょっとした近道を知っている、歩き始めたその瞬間。
「わぁああぁあ!!!」
と。
聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。反射的に声の方へ駆け出す。
目の前の草むらを払いのけ、飛び出した僕の目に写ったのは必死に縄にしがみつく虎若と一平だった。
→
もう少し続きます。
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