大事なお約束

「土井先生ぇえー…」


「あ、小松田くんやっと来た。待ってたんだぞ?」


「すみませんん……もう打ち上げてるんですかぁ?」


「あぁ、先生方と火薬委員会が交代で……あ、そうだ。これ」


「ふぇ?なんですかこの木箱?」


「火薬委員会が余分に作った花火だ。手違いで持ってきてしまって……すまないけど焔硝蔵まで運んでくれるか?」


「はい、そしたら交代ですね!行ってきます!」


「頼むよ」




※※※


ご飯を口に運びながら数馬と談笑していると、久々知先輩て伊助くんがこちらに歩いてきた。箸を止めて笑いかける。


「久々知先輩に伊助くん。こんばんは、どちらに?」


「こんばんはー要先輩!火薬委員会の交代に行くんですよ!」


「交代?」


「この花火は火薬委員会と先生方で交代であげてるんだ。今は斎藤と三郎次がいるから交代にな」


「大変ですね……僕に出来ることあれば手を貸しますか?」


「いや」


久々知先輩は強い眼差しで首を振り、僕の両肩にずしりと手を置いた。


「俺が作った花火もあるんだ。ぜひ見てほしい」


「久々知先輩が作った花火が上がるんですか!?すごいですね!」


「ああ、ここに座っていてくれ。もうすぐあがるから」


「はい!」


「じゃあ行ってきます要先輩!」


「行ってらっしゃい、気をつけてね伊助くん」


ひらひらと手を振りながら見送って、ばばっと空を見上げる。久々知先輩の花火……どれだどれだ。


「要なに探してるんだ」


「いやね、久々知先輩が作った花火が上がるっていうからさ」


「ふーん……あ。あれじゃないか?」


「えっどれっ!」


「あの四角い花火」


藤内の指差す方向へ目を向ければ、白く四角い花火が夜空に堂々と開いて消えた。


「なんとも久々知先輩らしい花火だな……」


「すごいすごい、火薬委員会があげてるんだってさ、花火!すごいね」


パチパチと花火に向かってささやかな拍手を送る。すると孫兵が「あ」と声を上げた。何事かとそちらを見れば、小松田さんがぱたぱたとこちらに走ってきている。


「どうしたの孫兵」


「小松田さんがなにやら重そうな荷物を抱えてる」


「うん」


「にもかかわらずぱたぱたと走ってきている」


「?うん」


「今日の中庭はいろんなものがあちこち置いてある」


「……」


「嫌な予感がするぞ…?」


「ちょ、ちょっと孫兵ー…まさかそんな!こんなお祭りの日に…」


あははははと笑顔を浮かべて話題を流そうとした僕の視界の隅で、小松田さんがなぜか置いてあった首人形に足を取られ盛大に躓いた。


「わぁああぁあ!」


手から飛んでいく木箱。蓋がついておらず、中の物はぽーんと宙を舞う。木箱はそのまま松明の束を倒し、松明はがらがらと倒れた。


コロコロと地面を転がったそれは二年生たちが座っているムシロの側へ。そこに座っていた時友四郎兵衛が転がってきたそれを拾い上げた。


「なんだこれー?焙烙火矢に似てるけど……」


「うわっ四郎兵衛!それ!点火してるぞ!!」


「え?」


久作の言葉に見れば、四郎兵衛の持っているそれは倒れた松明の火に触ったのか、導火線に火が灯っていた。途端に硬直する二年生たち。


「ばかっ!!はやく捨てろ!!!」


「うわぁあっ!」


左近くんの怒鳴り声に弾かれるように四郎兵衛は慌ててそれを宙に放った。またまたぽーんと放られた焙烙火矢(たぶん)は、一年生たちの元へ。


「うわぁああこっち来たぁあああ!!」


「あれは……昨日伊助が作ってた花火の玉だよ!」


「庄ちゃんたらこんな時でも冷静ね!」


「冗談言ってるバヤイかぁ!どっにしろ爆発したらタダじゃ済まないぞ!?」


「タダァアアァア!?」


「きり丸は黙ってろ!!!」


ぎゃあぎゃあと言い合うは組の子とい組の子たち、ろ組はもう諦めたのか頭を抱えてうずくまっている。


「危ない!」


一年生たちを庇って滑り込んできた潮江文次郎先輩の腕が、その花火の玉を何故かレシーブする。


「長次!長次ストップ!!」


嫌な予感がしたのか伊作先輩の悲鳴のような声が中在家先輩にストップをかけるが、まるで使命だとでも言うように、その花火玉を中在家先輩はしっかりトスした。


「小平太!やめっ…」


「なにを止める留三郎!」


意気揚々としたその声はトンと体を浮かせ、得意に声を上げた。


「トスされたらアタックあるのみだ!」


アタックなんてされた火が飛び散って大変なことになる。一年生たちもいるのに!僕はとっさにありたっけの声で叫んだ。


「七松先輩アタックしちゃ駄目です!上にあげて!!!」


「へっ!?」


すっかりアタックする気満々だったらしい七松先輩は、突然の僕の言葉にかくんと体制を崩した。


花火玉は七松先輩の腕に辺り、またまたまたぽーんと宙を舞う。僕らの方へ。


「ええぇぇえええこっち来た!!!」


「大丈夫だよ作兵衛、痛いのは……一瞬だけだから」


「数馬が悟りを開きやがった!!」


「この状況で!?」


「お前らうるさい!なんでもいいからなにか考えろぉお!」


「ジュンコお前だけでも…!」


わぁわぁとパニックに陥る同級生たちに、僕は慌てて周囲に視線を巡らせる。隣のムシロに座っていた綾部先輩の踏子ちゃんが目に入った。あれだ!


「綾部先輩借ります!」


「えっ要?」


すみませんと踏子ちゃんを引ったくって、一歩前に出る。ざわりとざわめく生徒たちに、何人かは僕の名前を呼んだのがわかった。


「よっ」


落ちてくる花火玉に合わせて、踏子ちゃんを構える。野球なんかやったの何年前だよ!当たれ!


「うりゃっあ!」


打ち上げるように斜め横一文字に思いっきり踏子ちゃんを振った。ガコッという手応えと勢い余って腰が地面につく。


ヒュルルル


ドカンと頭上遠くに堂々と咲いた青い花。


「っはは、良かったー…」


思わず苦笑を漏らすと、空一面だった景色に何人もの生徒の顔が飛び込んできた。


「大丈夫か要!」


「大丈夫だよー、ありがとう作兵衛」


「すごいな要!ヒュルルルって飛んでいったぞヒュルルルって!」


「唐揚げは要の物だな」


「言ってることが迷子だぞー」


「いけいけどんどんでなかなかのスイングだったぞ!びっくりだ!」


「うん、なかなかの踏子ちゃん捌きだったよ要」


これまたズレたことを言う七松先輩と綾部先輩に苦笑を漏らしながら起き上がると、食満先輩は「なんでレシーブしやがった!」と潮江先輩と喧嘩になっていた。


伊作先輩は中在家先輩になんでもかんでも飛んできたものをトスするなと叱っている。その隣で立花先輩はけらけら笑いながらそれを見守っていた。


「うむうむ、一ノ瀬要!なかなか綺麗に上がったではないか、花火!」


とどめに学園長先生からいただいたその一言に、ついに僕は耐えきれずに盛大に吹き出した。



新しく花開いた。
夏が弾け飛んだ



花火はいいですね。
本当は夏に上げたかった夏ネタ。

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