ぴょんぴょん

降り続く大粒の激しい雨に止まない雷。忍術学園の生徒たちは、それぞれに不安げな表情を浮かべて空を見守っていた。


そして何人かの生徒の思案が的中する。吹き荒れる強風に、その小さな小さな小屋は危険に晒されていた。


「先輩!板が足りないです!」


四年ろ組竹谷八左ヱ門は、叩きつけるような横殴りの雨に視界を阻まれながらも声を張り上げた。


「こっちにある!取りに来い!」


男気のある声に金槌を地面に置いて声の方に駆け寄った。何枚か板を先輩と手分けして持つ。


「竹谷ァ!うさぎは全部避難させたのか!?」


「避難させました!」


「よし!狼たちの巣穴も確認してきた!大丈夫そうだ!あとは小屋やら納屋なんかが飛ばされないように補強!」


「はい!」


てきぱきとした六年生の生物委員長の指示に板を抱えなおして小屋の元へ急いだ。


「うさぎはどこに避難させた!?」


「さっき先生に頼んで先生の部屋っす!数も確認しました!」


「よし、サッサと補強終わらせて風呂はいるぞ!きれい好きなんだよ俺ァ!」


やけくそな先輩の言葉に、そりゃあ嘘だろ、と思いながらも口には出さずに板を打ちつけた。


※※※


雷の轟音と絶え間ない雨のリズムのなかで、僕ら呑気にお茶をすすりながら恐怖を誤魔化すように談笑していた。


「それでさーこの間も右って看板に書いてあったから進んだのに、なぜか着かないんだよ。なぁ左門?」


「ああ!右かと思ったら左だもんな!」


「左門、三之助、問題です。右ってどっちでしょ?」


僕が問えば2人は自信満々にバッと見事に左の指差した。右っつったろ…


「あー覚えてる、見つけるのすっげえ大変だったときだろ、それ。藤内に手伝ってもらったんだ」


げっそりとした表情で話す作兵衛さんに労いのお茶を入れ直してやる。その直後、またピシャァッと稲妻が走った。


「雷、止まないねぇ」


「ああ……」


僕が何気なくこぼした言葉に孫兵が重く返答をよこした。やっぱり、孫兵の様子がおかしい気がする。なにか不安なことでもあるような。


「ねぇ、孫兵…」


「伊賀崎孫兵ィイ!居るかァアアァ!」


「うわぁああああ!?」


突然乗り込んできた来訪者に作兵衛が飛び上がって、向かいの三之助にしがみついた。左門も巻き込まれて床に転がる。


「び、びっくりした……木下鉄丸先生…そんなに広い部屋ってわけじゃないんだから、大声出さなくても聞こえますよ」


ばっくばっくと鳴る心臓を押さえながら言えば、障子から顔を覗かせている木下先生は「そうか」とだけ応えて孫兵に視線を向けた。


「すまないがすぐ出られるか!大至急だ!」


「えっ…?」


孫兵がぱちくりと目を瞬かせる。木下先生は孫兵の元に歩み寄ると、不機嫌そうな顔を困ったように歪ませて言いにくそうに言葉をこぼした。


「実は…避難していたうさぎが一羽いなくなったんだ。探すのを手伝ってもらいたい」


「えっうさぎが!?」


「ああ…強風で障子が飛ばされそうになってな…直そうと目を離した隙に、一羽足りなくなっていて」


「そんな……」


「もうじき竹谷たちも小屋の補強が終わって戻ってくる。呼んでくるから、外に出てもらえるか」


そう告げると木下先生は足早に部屋の前から去って行った。作兵衛は眉をひそめて立ち上がり、迷子2人も孫兵を気遣うような面持ちで立ち上がる。


呆然と立ち尽くす孫兵の顔は真っ青で、震えているように見えた。


「そんな……こんな、雨のなか、庭も池みたいになってるのに…もう…死ん……」


「孫兵」


ジュンコがどこかにふらりといなくなってしまったときのように、いつものように、僕は孫兵の手を包んでゆるりと笑う。


「大丈夫だよ、孫兵。僕も一緒に探すから!」


「……要」


「ね?僕、いつも孫兵んとこの逃げ出した生き物みつけるの上手いでしょ?任せてよ!」


「………でもお前、雷怖いんだろ」


「なっ、だから怖くないって!いきなり音がするのが吃驚するだけだし!」


「きゃあきゃあ言ってたくせに」


「言ってない!言ってないっての!」


くす、と孫兵の顔に笑みが浮かんだ。僕もそれにニッと笑い返して、作兵衛たちを振り返る。


「ごめん3人とも、湯のみそのままでいいから…」


「俺らも見くびられたもんだなぁ、作兵衛ー」


「え?」


「一緒に探すに決まってんだろ。ただし、左門三之助、俺から離れるなよ!雨のなかお前ら探すの死ぬほど大変なんだよ!」


「行こっ!孫兵!」


左門が僕の真似をして、反対側の孫兵の手を取ると悪戯っ子のように笑った。



もう少しだけ続きます。






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