しゃららら
返却された本をとんとん、とまとめて図書室を見渡した。返却期限を過ぎている図書は今のところ珍しく無かったし、あとはこの本を仕舞えばおしまいだ。
「そっちはどうー?終わった?」
「はぃい…貸し出し帳簿の記入と確認…終わりました」
「はいはい。うん、大丈夫だね。じゃあ後はこの本を…」
「怪士丸ー!!ここか!」
スパァン!と開いた図書室の扉に、びくぅっと肩を震わせた怪士丸から魂が抜けていく。抜け殻になった怪士丸を左手で支えて、右手で魂を掴むと僕は眉をひそめて注意した。
「きり丸、扉の開閉は静かにって約束のはずでしょ?あと大声を出さない」
「あっ!要先輩も居たんスか!丁度良かった!」
「え?あれ?聞いてる?」
「大変っすよ要先輩!」
「あ、なるほど。聞いてないね」
「いま庄左ヱ門から聞いてきたんですけど!またまた学園長の突然の思いつきで!」
きり丸は怪士丸に魂を戻す僕の腕を興奮したようにばんばん叩いて、目を輝かせながら口を開いた。
「花火大会が行われるらしいッスよ!」
※※※
怪士丸はきり丸に拉致されてどこかに走って行ってしまった。「要先輩もはやく来てくださいよ!」との声に苦笑しながら歩いていると、いきなり後ろから背中にドカッと衝撃が走る。
「要要要!どこに居たんだ探したぞ!」
「う、わ、びっくりした。左門、作兵衛は?」
「迷子だ!」
「ああうん。左門、迷子になったんだね」
「今日は食堂のおばちゃんは中庭に出張してるぞ!机を出して、ご飯を食べながら花火を見るんだって!」
「へぇえ…豪勢だねぇ」
ぐいぐいと引っ張られながら中庭に足を運べば、たくさんのムシロの上に教科教室で使っている机が並べられて、生徒たちは思い思いの席についていた。
「おお要ー!こっちこっち!」
「三之助さん三之助さん、僕はこっちね」
「あ?なんだよそっちかよ」
「ほんと期待を裏切らないよねぇ、三之助は」
「要、もう孫兵も捕まえてあるよー!こっち座って」
数馬の声にそちらを見やれば、あまり乗り気ではない顔の孫兵がジュンコを撫でながら胡座をかいていた。苦笑しながら孫兵の隣に腰を下ろす。
「あ、僕の分の定食、ありがとう数馬」
「いえいえ」
「花火どこから上げるんだろーな三之助!」
「ちょっくら探しに行くか!」
「こら待てぇえええ!許さん許さん!」
「なんだよ?」
「作兵衛も行くか!?」
「座れお前たち。花火の側には危ないから近付くなって先生に言われたろ。近付いたら飯抜きだぞ?わかったか」
「「はーい」」
「助かった藤内……」
ばたりと迷子縄を持ったままムシロの上に倒れた作兵衛に、藤内はいたわるようにぽんと作兵衛の肩に手を置いた。
「花火って敷地内であげてるの?」
「そうみたいだよ」
「こういう思い付きなら良いなぁ……ほら孫兵、いつまで拗ねてんの?」
「……」
「ああああおいこら誰だ僕の唐揚げ取った奴!!!!」
「俺だ!!!」
「お前だったのか!!!」
「左門三之助うるせぇよ!」
「賑やかだなぁ」
「怪我人出ないと良いけど」
「不吉なこと言わないでよ数馬……」
「皆の者!集まったか!」
学園長先生の声にざわざわとしていた声が静かになる。それを見てこほんと一つ咳払いして、学園長はなにやら楽しげに口火を切った。
「今宵は忍術学園大花火大会を行う!皆の者、これからたーっぷり出される夏休みの宿題を頑張る糧にしなさい」
その言葉に下級生を中心にでぇええー!っと声が上がった。それをカッと目を見開いて黙らせて、学園長は片手に持ったお酒のお猪口を高々と持ち上げた。
「じゃあかんぱーい!」
「ちょっと、違いますよ学園長先生、いただきますです。おばちゃん、お願いします!」
土井先生が苦笑しながら言えば、学園長の隣に座っていた食堂のおばちゃんが立ち上がり、学園長のように意気揚々とシャモジを持ち上げた。
「お残しは許しまへんで!」
いただきますとちょっとズレた大合唱と共にざわめきが中庭に戻った。僕も手を合わせていただきますと口にする。
「なぁなぁ三之助!唐揚げ賭けてジャンケンしないか!」
「乗った!!!」
「乗るな!」
「作兵衛もやろう!」
「やらねぇよ!唐揚げ取られたのは左門だけだろ!」
「たまには外で食べるのも悪くないねぇ、藤内」
「うるさくなけりゃな…」
「孫兵孫兵、ジュンコって漬け物たべる?ジュンコーあーんしてー」
「わっばかっ!変なもの食べさせるな!」
「じゃあ俺がもらうー」
「三之助きゅうり好きだったっけ?はい、あーん」
「あーん」
「なんつー図晒してんだよお前らは……」
「藤内も食べたい?」
「要らん」
「じゃあ僕はヒジキあげる要。はいあーん」
「わーいありがと数馬」
「よしみんなでやろう!そうすれば合計7個の唐揚げが自分の物に!」
「乗ったァアアァア!」
「うるっせぇな乗るんじゃねぇって!!」
「仕方ないなぁ、ジャンケンしたら静かに食べるんだよ?」
「えー…やるのか数馬」
「ほら藤内もやるよ」
「えー…」
「孫兵、ジャンケンだって」
「僕はもう全部唐揚げ食べた」
「せっこ!!」
ヒュルルル
ざわざわと楽しげに騒がしくざわめく生徒たちの鼓膜を滑ったその音は、黒い空に七色を爆発させた。
じゅわじゅわと溶けてなくなったかと思えば、すぅっと一線空に走って、青を中心に黒の上に大きく爆発する。ドンッと鼓膜を叩いた音に、懐かしさが弾け飛んで消える。
「綺麗」
誰かの声にこくんと頷く。
前の世界で見慣れたそれは、電気や街灯の届かない空に堂々と花開いていた。
周りにたてられた松明の束の光も花火には適わず、視線は全てその花に奪われていく。
「綺麗だな」
「うん」
孫兵の言葉に僕は空から目を離さないまま頷いた。すると、くすりと隣から笑い声が漏れて、孫兵の楽しそうな声が僕の耳に届いた。
「間抜けな顔」
→
もう少し続きます。
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