3つの太陽に照らされ

「強行突破って…!ちょっとちょっと待って!どうするの?」


僕の言葉に、決意した顔で拳を突き上げていた3人の表情がぴしりと固まった。考え無しかよ!という突っ込みを飲み込んで、3人の言葉を待つ。


「どうするって……どうしよう乱太郎?」


「えっ?えーと、…どうしようっか?きり丸」


「エ゛ッ!?……あー…どうしましょう、要先輩」


「はぁ…きみたちね…」


えへへーと照れ笑いを浮かべる3人だが、僕は褒めてないぞ。ため息をついて"強行突破"案を考え直してみる。


「強行突破ね…強行突破…よし。やろう!強行突破!」


「えっ!やるんスか!」


「うん。提案したのは君たちでしょうよ?」


「いや、提案したのはたしかに私たちなんですけど…」


「要先輩!なにか作戦があるんですね!」


「鋭いねーしんべヱくん。そうそう、使う機会ないかなぁと思ってたんだけど、これが役に立ちそうだ」


僕がごそごそと懐から取り出した袋に、3人は首をかしげながら手元を覗き込んだ。


「これは?」


「なんだと思う?きり丸」


「んー…見た目は一回りおっきな饅頭だけど…」


「えー!?お饅頭!?」


「こーらしんべヱくん。食べちゃ駄目」


「これをどうするんですか?」


なおも首をかしげる乱太郎くんに、僕はそのお饅頭のようなものを数個持たせて、内緒話をするように唇に指を置いた。


「いい?僕の話をよーく聞いてね?」


※※※


山賊の頭を含んだ探索組3人はあの4人組を探し、山のなかを目を光らせ歩いていた。


草むらをかき分け、人一人はいれる木のくぼみやら小さな洞窟やら、探せるところは全部探した。


だがあのちび三人に餓鬼一人はどこにも見当たらない。


「なぁお頭ぁ、まさかもう山を降りたんじゃねぇか?」


「だが出口の山道は一応塞いでるぞ?」


「一応だろうがよ…」


「4人もいるんだ!しかも太った餓鬼は動けねぇ!そう遠くには行けねぇはずだぞ!」


「じゃあやっぱり隠れてんですかねぇ」


「あっちにも3人探してるやつらがいるんだ。6人も居りゃあ絶対に見つかる」


「そうかなぁ…」


どうも嫌な予感がするんだよなぁ、とぼやく山賊の1人に山賊の頭がげんこつを食らわせ「黙って探せ!」と激を飛ばした。


「山道の出口にも2人見張りがいるんだ!4人の餓鬼くらいすぐに…」


ァアァ…


「?」


かすかな音を耳が捕らえた。なにかが叫んでいる。わめいている。なんだ?獣か?3人は一様に不思議そうな顔をして、きょろきょろと辺りを見回した。


「お、お頭ぁ…」


「あぁ?なんだよ」


「あれ…」


ァアァ…!


そこには人間のようなものがいた。なにかが複数、"この急斜面を全力で駆け下りて"いる。


「ああああああああ!!」


「キャアアアアアア!!!」


「ワアアアアアアアアアアアア!!!」


一様に、耳をつんざくような叫び声を上げながら。


「なっ…なぁっ!?」


さっきまで遠くにいたそれが一気に距離をつめてきた。山賊たちは反射的に腕で顔面を覆い、うずくまる。


叫び声はものすごい速さで耳を掠って、やがて離れてゆく。そこで"ハッ"と気がついた山賊のお頭は顔を上げ、鬼の形相で怒鳴り声を上げた。


「くそっ…あの餓鬼どもだァア!不意をついてきやがった!追えぇ!!」



※※※


3人の叫び声は途中から笑い声に変わった。


「やったぁ!音で怯ませるの術!成功!!」


「乱太郎すっげえ顔で叫んでたなぁ!!」


「きりちゃんだって人のこと言えないでしょー!!」


「第一関門は突破だね!このまま帰り道の山道まで走るよ!打ち合わせ通りに!」


「「「はいっ!」」」











「まずは僕らを探している山賊を見つけて、そいつらを急斜面を駆け下りて追い越す」


「はい!」


「はい乱太郎くん」


「なぜわざわざ追い越すんですか?見つからない方が良いんじゃ…」


「うん、良い質問。それはね、確実に罠にかけるため」


「あ!罠ってこれッスね!」


きり丸が手に持った饅頭数個を突き出し、しんべヱくんが饅頭を見つめながら首をかしげた。


「でもお饅頭が罠になるんですかぁ?なんか変な臭いもするし…」


「なんの臭いかわかる?」


「んー…なんかわからないのと、唐辛子…かなぁ」


「そう、正解。これね、自由研究で作ったんだけど、空気中に舞い上がる粉と唐辛子を粉末にしたものが混ぜ合わせてあるんだ」


「「「おおお!!!」」」


手に持った饅頭をみて目を輝かせる3人。やがてきり丸が興奮したように顔を上げてまくし立てた。


「わかった!これを山賊たちに投げつけるんスね!?」


「いや?実はこれ、ちょっと難点があって……投げつけるくらいの衝撃じゃ粉末が吹き出さないんだ」


「「「えええっ!?」」」


たちまちずっこける3人に僕は苦笑を返す。顔に確実当てればなかなかの効果は期待できるが、確実に、だ。今回のバヤイは使えないに等しい。


「じゃあこれ使えないんじゃ…」


「言ったでしょ乱太郎くん。"急斜面"を上手く使うって」


「"急斜面"を…?」


「良い?山賊たちを追い越して、帰り道の山道まで一気に走る。山道を横一例に並んで、この饅頭を地面に置いて…山賊たちに踏ませるんだ」


「へ?踏ませる?」


「投げつけるのと、あの急斜面を駆け下りてきた足でこれを踏むとじゃ"威力"が違う。うまく吹き出してくれるはず」


あとは諦めないこと。絶対に足を止めないこと。


絶対に、絶対に、








ザザッと木の枝が頬にあたり、放り投げられるように山道に出た。勢いを殺すことなく、そのまま東の方向へ駆け下りていく。


「しんべヱくん!後ろは!」


前をしっかり向いて走らないといけない今、後ろを正確に確認できるのは僕におぶられているしんべヱくんだけだ。


「はいぃ!きてます!えーと、…6、人?」


「よしよし!じゃあ合図で"それ"後ろに投げて!」


了解!と声が聞こえてタイミングを図る。しんべヱくんが「どんどん近づいてきます!」と悲鳴のような声を上げた。


遠過ぎては駄目だ。跳んで避けられてしまう。


「要先輩ぃ!」


「おらぁ!待ちやがれェエ!」


「投げて!」


その合図に弾かれるようにしんべヱくんを筆頭に乱太郎くんもきり丸も、饅頭を後ろに放った。


「なっ…!」


その勢いにこの距離では避けられない。山賊たちは物の見事に足元の饅頭を勢い良く踏みつけたようだった。


粉が噴き出し勢い良く舞う。後ろの残りの山賊も巻き込まれ、成功だ!としんべヱくんが声を上げた。


「くそぉお…ッガ…!なんだ…ァ!この粉ァアァ!」


その声を背に、振り返らず走る走る走る。やがて木々が浅くなり、山道の終わりに2人の男が見えた。


「あっ!餓鬼どもが降りてくるぞ!」


「オラァア!止まれ餓鬼ども!!」


刃物を構えたのが見え、打ち合わせ通り、乱太郎くんときり丸が僕の後ろについた。


「断る!通らせてもらいますよ!」


狙いを定め、煙玉を山賊2人の足元に投げつけた。途端に煙が噴き出す。少量だが押し通る分には十分だ。


咳き込む2人の間をすり抜け、僕たちはようやく、山を抜け出した。が、足は止まらない。


「…ッ…ハッ…」


「要先輩!要先輩!」


「…ッハァ…ハッ…」


「要先輩ってば!」


視界に赤毛が入って、ようやく僕の足は止まった。みればきり丸はヘロヘロと後ろを走っていて、足の早い乱太郎くんが僕を止めてくれたらしい。


「要先輩!大丈夫ですか!?山賊たちもう追ってきてませんよ!」


「…あ、そ、そっか…」


かくんと足から力が抜けて、追いついてきたきり丸が慌てて背中のしんべヱくんを支え降ろす。


「みん、な…怪我はない?どこか切ったり、し、てない?」


「大丈、夫ッスよ!」


「私も平気です!」


「僕もー」


「そ、か…、ハァ、良かった…ああー…怖かった、ねー」


「ホントもー…くたびれましたァ…」


「きり丸も、乱太郎くんも、しんべヱくんも、偉かった、よ」


息を切れ切れにそう言えば、3人は首をひねって眉をひそめる。


「なかなか、じゃない?僕たち、よく頑張った!」


「そうッスね!」


「これからは実技のは組をアピールしていこうよ!」


「しんべヱそれナイスアイデア!」


「「「実技のは組ー!!」」」


太陽のような3人の声は、どこまでもどこまでも。高く高く空に溶け込んでいった。



3つの太陽に照らされ
(ああ…でも僕もう無理…)(あっ!よく考えたら要先輩、しんべヱ背負って全力疾走!)(ちょちょちょ要先輩寝ないでください!!)(おなかすいたなぁ…)




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