ごろごろぴかり
今日の忍術学園はとってもとっても天気が思わしくない。黒々とした雲に、縄梯子の実習を見てくださっていた先生が眉をひそめて実習する僕らにストップをかけた。
「雨が降りそうだ!実習やめ!当番の者は速やかに片付けをしろ!」
「終わりですか?」
「余った時間は確実好きに使って良し!ただし他の授業の邪魔はするなよ!苦情きたらマラソン増やすからな!」
うげーと声が広がって、「わかったかのか!?」と先生の怒号に慌てて、い組揃って良い返事を返した。
「孫兵、どうしよっか?」
縄梯子をくるくると海苔巻きのように丸めながら、同室の友人に問えば、孫兵は木陰に隠していたジュンコを首に巻きつけて戻ってきたところだった。
「うーん…」
「部屋でお茶でもする?僕お菓子持ってるよー」
「教室いくの面倒だしな…そうするか。ねージュンコ?」
「じゃあ、行こう…あっ、縄梯子持ってくの手伝おうか?人数足りてる?」
縄梯子を運び始めた級友に問えば、気にせず行ってこいとお言葉をいただいた。甘えさせてもらって孫兵と部屋に歩く。
「うわーみてみて孫兵、本当に真っ黒だよ。なんだか風も強くなってきちゃったし」
「本当だ…ジュンコが可哀想だ。はやく行こう要」
「うん」
足早に部屋に戻る僕たちの背中を押すように、びゅうびゅうとひときわ強い風がふいた。
※※※
「あー!雨が降ってきた!」
「大きな声を出すな小平太!…だいぶ強い雨だな」
「ほーら小平太!動いたら治療ができないよ!」
五年ろ組七松小平太は、実習で出来た傷を五年は組、善法寺伊作に見咎められ医務室で治療を受けていた。付き合いで一緒にやってきた食満留三郎も、障子から外を眺めて眉をひそめている。
「いだだっ!?伊作伊作いたいいたいいたい!!」
「当たり前でしょ!?べろっと剥けちゃってるんだから!」
「お。一年生たちが引き上げてるな。おーい!転ぶなよ!」
その声に突然の雨に引き上げてきた一年生たちは「はぁい!」と返事をして走って行った。
「はい、おしまい」
「終わったどんどーん!」
わぁいわぁいと両腕をぱたぱたする七松が、さっきの一年生たちと変わらん。と食満がため息をつくと、その閃光は空の亀裂と共に現れた。
「わっ」
閃光がなくなったかと思えば、今度は地に轟くような音が耳を這ってくる。伊作は驚いてぱちくりと目を瞬かせたのだが、七松はなにを考えているのか縁側に飛び出して両腕を空に突き上げた。
「いけいけどんどーん!」
地を這い轟く雷。
「ゴロゴロどんどーん!」
「なにがしてぇんだお前は」
「雷と勝負だ!」
「意味わかんねぇことするな!ほらっ、濡れるぞ。はやく戻れ」
「すごい雷だねぇ…」
伊作までのそのそと七松の隣にやってきて、空を見上げる。
「どんどん雨も酷くなってるし…」
「ああ!風呂釜ひっくり返したみたいだな!」
「ああすごい。それ的確」
「ちょっと用具庫心配だな…」
「うーん…僕も薬草畑がめちゃくちゃになってないといいけど…」
「小平太…迎えにきた…」
「あー!長次!ありがと!」
※※※
絶え間なく鼓膜をたたく雨に挟んで、ピシャァッ!と光る稲妻。そして轟く雷鳴。
「…うわっ!いま近かった!近かったね孫兵!」
「楽しそうだな…」
「いや雷ってちょっと綺麗だから、なんか…うわっ!?やー今すっごい大きかった!怖い怖い怖い」
「女子か」
いや本当に洒落にならないくらい大きな雷だ。僕はびくびくしながらも障子をそーっと少し開けた。
ピシャァッ!!
鋭い閃光と共に、僕の前に立ちはだかる何か。
「…あ…あ、」
人間、のようなもの。
「うわああぁあぁぁ!?」
叫び声を上げて飛び退くと障子の向こうも「ぬわぁあぁあ!?」と叫び声が上がった。
「なにしてんだ作兵衛?」
「どうした!転んだのか!?」
「違ぇ!びっくりしたんだよ!」
「え?作兵衛?」
そろそろとまた障子を開ければ、作兵衛と左門、三之助がキョトンと僕を見つめた。
「ああなんだ作兵衛かぁ……びっくりした」
「びっくりしたのはこっちだ!なんだよいきなり大声出して!」
「いやー雷の逆光で作兵衛が恐ろしいものに見えて…はは」
「ったく…あれ?つか、い組今日は授業終わるの早かったのか?」
「外で授業だったから、早めに引き上げたんだ」
ジュンコを撫でながら口を挟む孫兵の言葉に、迷子コンビが「えええー」と声を上げた。
「いいなぁあぁ」
「良いもんか左門。さっきから要は雷が鳴るたびにきゃあきゃあ五月蝿いし」
「なっ…きゃあきゃあは言ってないでしょ!?」
「きゃあきゃあだ、どう聞いても」
「言ってない!言ってないからね!」
「なに恥ずかしがってんだよ」
にやにやと笑う三之助はいつの間にやら部屋に侵入して、畳に転がっている。
「あーやっぱり二人部屋はちょっと狭いんだなー」
「僕たちは三人部屋だもんな!」
作兵衛と左門までぞろぞろと部屋に入ってくる。まぁいいかとため息ついて、お菓子と急須を取り出した。
「…、」
「?孫兵、なんか元気無いけどどうかした?」
ふ、と思案げにため息をこぼした孫兵に、僕はお湯を入れた急須を手に孫兵の顔を覗き込む。すると孫兵は、キョトンと虚をつかれた顔をして首を振った。
「先輩方が……下級生には手伝わせてくれないから」
「…孫兵?」
孫兵はなにも答えず、ただ不安げにガタガタ揺れる障子を見つめていた。
→
続きます。
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