3人集まれば

深い深い森の中。
三人の良い子たちの悲鳴がその森じゅうに木霊していた。


「助けてぇええぇえ!」


ばたばた足を動かし、声を張り上げて助けを乞う。やがて黒い髪の少年が走りながら後ろを振り向き、慌てたように叫んだ。


「うわぁあ追い付いてきやがった!」


「もーう!きりちゃんが勝手に山の山菜を盗るからぁ!」


「ぼくもう走れないよぉ…!」


「あいつら本当に地主かぁ!?地主にしては小汚い格好なんだけど!」


ひぃひぃ叫びながら走る黒髪の少年の声は、少年たちを追いかけている数人の"小汚い"男たちの耳にもしっかりと届いた。


「小汚いだとぉっ!?」


「クソ餓鬼どもー!待ちやがれェエ!!」


「きりちゃんは一言多いんだからアァ!!」


赤毛の少年は黒髪の少年を責めるように叫び声をあげで、足をいっそう速く動かした。


「ううー…僕もう走れな…あっ!?」


「しんべヱ!」


太った少年が地面に足をとられ、少年たちが慌てて振り向くが転んでしまった太った少年は、足をおさえてうずくまってしまった。


「足を捻ったの!?しんべヱ、大丈夫!?」


「うぅう…そうみたい…」


「乱太郎!おっちゃんたちが!」


ハッと赤毛の少年が振り向いたときにはもうすでに、追っ手の男たちは目と鼻の先だった。


「さーあ追い付いたぞ餓鬼ども…身包みぜーんぶ置いていってもらおうか」


にやにやと数人の男たちが3人の少年を取り囲む。1人1人が刃物をちらつかせ、少年2人は足を捻ってしまった太った少年は背中庇うようにして男たちに対峙した。


「もらうぅ!?ふざけんな!誰がお前らなんかにやるか!」


「お前たち、山賊だな!?」


「だったらなんだ!生意気な口ききやがって…少しは痛い目見てもらわなくちゃ駄目らしいなァ?」


ぱし、と刃物を手に構え直し、リーダー格らしい男がにやりと笑うと、周りの男たちもまた一様に刃物を構えた。


「…っ…」


「どうする、乱太郎」


「とにかくっ…隙をみて…」


「やっちまえ!!」


逃げる隙など与えてたまるかと言わんばかりに、リーダーの男が高らかに叫んだ。


しかし、


「ちょっと待った!」


そんな危機、お節介な彼が見逃すわけもなく。凛と響いた声に上空からいくつも玉が降ってきた。


「なっ…!?」


玉から白い煙が押し出されるように吹き出す。男たちも少年たちも驚いて「わぁあ!?」と顔を両腕で覆った。


「なんだ!?」


「なにも見えねぇぞ!」


「きり丸、これって…」


「煙玉だよな…!?」


「乱太郎くん、きり丸!」


はっ、と聞き覚えのある声に顔を上げれば、黒髪の少年――きり丸の委員会の先輩がそこにいた。


「要先輩…!?」


「話は後、しんべヱくんは僕が背負うから、逃げるよ。付いてきて」


そう言ってサッと太った少年を背負うと、音もなく駆け出した。2人の少年も慌てて後を追う。煙が晴れたあと、残されたのは真っ赤な顔をして地団駄を踏む山賊たちだけだった。


「くっそー!逃げられた!!あのクソ餓鬼どもォオ…」




※※※


煙玉、うまくいって良かった。内心ドキドキだったんだけど、そんなことを思いながら、僕は湧き水で冷やした手拭いを乱太郎くんに渡した。


「これで処置出来そう?」


「はい!しんべヱ、大丈夫?」


「うん、平気。ありがとうございます要先輩」


「気にしないで」


「要先輩、またなんであんなとこに居たんスか?」


「え?あぁ、まあ偶然だよ。偶然煙玉があったから、良かった良かった」


からから笑ってみせると、きら丸はなにやら呆れたような視線を僕に向けてくる。


「そんなこと言って、まーた誰かにお節介してたんでしょ」


「……ん、ん、まぁ…ここの地主さんと父さんが、ね?知り合いで、山菜採りの手伝いを…ちょっとだけね」


「まーたタダ働きして!」


「まぁまぁきりちゃん。はい。これでよしっと」


みればしんべヱくんの足首は手拭いでしっかりと固定されていた。さすが乱太郎くんだ。


「しんべヱ、大丈夫か?」


「うん、ありがとうきり丸。乱太郎も、要先輩も!」


「どういたしまして」


「しかし…山の奥に入っちゃいましたね…」


不安げな声音の乱太郎くんに、僕も辺りを見回す。木々が深く、お世辞にも道と呼べるものは見当たらない。文字通り"山の中"だ。


「うん。とにかくはやく山を出て忍術学園に帰ろう。しんべヱくんが心配だ」


「でも…僕…」


「大丈夫、僕がおぶってあげるから」


ね、と微笑めばしんべヱくんは嬉しそうに「はい!」と返事をしてくれた。


「でも道はわかってるんでスか?要先輩?」


「……うーん」


「え!?まさか!?」


きり丸がガッと僕の両腕をつかむ。僕は苦笑しながら口を開いた。


「地図をね…さっき落として来ちゃったみたいで…」


「地図ってなんの!?」


「この山を出るための地図」


「なにやってるんスかぁああぁあ」


「うーん、面目ない…」


「え、え、じゃあ僕たちこの山で迷子になっちゃったってこと…!?」


「そういうことだね乱太郎くん」


「ええぇえ!?」


うわぁあぁ最悪だぁあと頭を抱える2人に、僕はよっこいしょ、としんべヱくんを背負って笑う。


「まーまー、方向はわかればなんとかなるから、大丈夫だよ」


「え?方向?」


「うん。2人とも"きしゃく"持ってない?」


「あ、僕持ってます!」


乱太郎くんが"きしゃく"を取り出した。それを水に浮かべてもらい、方向を確認する。


「僕はこの山にずっと真っ直ぐ歩いて来たんだけどね?そのとき忍術学園には朝日が昇ってた。だから、東の方向へ歩いていけば出口にたどり着けると思う」


「「「おおおー!!」」」


3人からきらきらと効果音がつきそうな歓声が上がった。僕はえへへと照れながらしんべヱくんを背負いなおした。


「それにしても先輩、冷静ですね」


「うんまぁ、迷子には結構耐性ついてるからね」


「神崎先輩と次屋先輩ですね!」


しんべヱくんの指摘に苦笑しながら頷く。あいつら2人にはよく野外実習で迷惑をかけられている。ひぃひぃ言いながら2人を追いかける作兵衛を放ってはおけず、僕まで2人を追いかけているため耐性がついてしまった。


「よーし、東はあっちだね。行こうか」



※※※


「頭ァ!こんなものを見つけました!」


木にもたれ苛々と足を動かしていた山賊のお頭は、なにか紙片を振り回しながら走り寄ってくる男にぎろりと視線を向けた。

「なんだ?これは」


「この山の地図みたいですぜ。あの餓鬼どもの物ですかね」


「へぇ…?」


山賊の頭は紙片を受け取り、にやりと怪しく顔を歪ませた。子分の男が不思議そうな顔をして首をひねる。


「どうかしたんですかい?」


「馬鹿!この山の地図をあの餓鬼どもが持ってたってこたぁ、あいつらはこの山の地形にゃ詳しくねぇってことだ」


あの餓鬼ども、この山から逃がすものか。


「あの餓鬼ども、捕まえるぞ」




続きます。

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