髪結い忍と

「あれっ藤内…」


「ん?」


ばったり会った藤内に作法室でお茶しないかと誘われて、お菓子をつまんでいる平和な今日。


僕は首をかしげてさらりと揺れた藤内の髪を指差して、微笑んだ。


「髪、綺麗だね」


「…」


「あれ?」


「そんなんだからお前かくの一教室に天然タラシとか言われるんだ」


「えええっ!初耳なんだけど!?嘘っ。僕そんなこと言われてるの!?」


呆れたような顔をしてため息をつく藤内は前髪をつまむと、「まぁ」と口をひらく。


「髪が綺麗なのは髪結いさんにやってもらったからなんだ」


「髪結いさん…!さっすが作法委員会…立花先輩徹底的だね…」


作法委員会たるのも美しくなければ、と言わんばかりに作法委員会は綺麗な子が多い気がする。きっと後輩たちの美しさを立花先輩は保とうとしてるんだ。うんうん。


「お前なに言ってるんだよ。忍たまにいるだろ、髪結いさん」


「え?」


「転入してきた四年生の斎藤タカ丸さんだよ」


そういえば孫兵がそんなことを言っていたような気がする。四年生に新しく転入生が来たらしいって。


しかしその後すぐに興味をジュンコに移してしまったので、詳しく聞けずじまいだった話題だ。


「その斎藤タカ丸さんが髪結いさんなの?」


なんでまた髪結いさんから忍者に…と眉をひそめた僕の考えを見抜いたのか、藤内が苦笑した。


「タカ丸さんのお爺さんが忍者だったそうだ」


「へぇ…」


「忍術学園に来る前は辻刈りだったらしい」


「へぇ………え?」


辻刈り?
辻斬りじゃなくて?


「訳はよく知らないんだけど、人の髪の毛を無差別に襲ってたらしい。今はすっかり更正したのか、すごく優しげにみえるけどな」


「髪の毛を襲うって…」


どういう人なんだろう…という僕の疑問は、数日後に簡単に解消されることとなる。



※※※※


「あのー…」


「はい?」


授業も終わったし、読みかけの本でも読もうかなぁと廊下を歩いていると、柔らかい声が僕を引き止めた。


「ごめんねー。ちょっと道を聞きたいんだけど、いいかなぁ?」


振り返ると金色の髪の四年生が、人当たりの良い笑顔を浮かべていた。道?なんで四年生が?と首をかしげながらも微笑み返す。


「ええ、どちらへ?」


「んーとね…ええとね…くく…?九九くんってわかる?」


「九九さん…ですか?」


はて、九九さんとな。
うーんと腕を組んで記憶を探ってみる。まあまあ記憶力には自信があるほうだ。旅籠の息子だからね!お客さんの情報を記憶しておくといろいろと便利なんだぜ!


「九九さんを探してるんですか?えーと…」


「あ、俺は新しく四年生に転入してきた斎藤タカ丸ですー。よろしくねー」


「あ!あなたが髪結いさんですか!」


「元、だけどねー」


「僕は三年い組の一ノ瀬要です。よろしくお願いします」


「うん!よろしくね!」


「それでですねタカ丸さん。たぶん九九さんって人は忍術学園にいらっしゃらないかと…」


「えー?そうなの?」


「はい」


「うーん?」


タカ丸さんは考え込むように腕を組んで、やがてぽんと手を打った。


「じゃあ、きみの髪いじってもいい?」


「え?」


「いやぁ、少し待ってたらたぶん、九九くんの方から探しにきてくれると思うんだ!だから、」


「その間の暇つぶしってわけですか」


「それもあるけど、要くんの髪ってふわふわしててなんか可愛いんだよねぇ。いじってみたいな!」


「はぁ」


そういえば藤内の髪もすごく綺麗だったし。僕は少しわくわくしながら、縁側に腰掛けた。


「じゃあお願いします」


「はーい」


紐解かれて髪が肩に落ちる。後ろからタカ丸さんの「ふわぁ…」という声が聞こえた。


「すごいすごいやわらかーい!」


「あの…喜んでいいんですか僕…」


「くせっ毛なんだねー。髪結うの大変じゃない?でもやっぱりふわふわしてて可愛いなぁ」


「はぁ…」


「あっそうだ女装!忍たまって女装の授業があるんだよね!?要くんはもうやっちゃった!?」


「い、いえ。まだですけど…」


「じゃあじゃあ!女装の授業のとき、髪は俺にいじらせてね!絶対だよ!」


「あ、えーと…はい」


「さーてどんな髪型にしようかなぁ。高く結って色気出してみたり?」


「出さんでいいですから!」


言葉巧みに操るタカ丸さんと話をしてる間に、ほいほいっと髪を結われていく。


「あはは、ほんとに柔らかくてふわふわー。食べちゃいたいねー」


「タカ丸さん…やめてくださいよ…?」


「我慢するよー」


「我慢って…」


ピチチチチ…と鳥の声。
暖かな日差し。もうすぐ夕刻になるけど、日差しは昼のように暖かい。競合区域から離れているせいか、騒がしい音はここまで届かない。


「(平和…)」


忍たま失格だなぁと思いながらも小さく欠伸をする。たったったっと近づいてくる誰かの足音を聞きながら、僕はゆっくりと目を閉じた。


「はいおしまーい!…あれ?要くん?」


「あ!タカ丸さん!」


「およ、九九くん」


「誰が九九くんですか。僕は久々知です!」


「そうだったー。ごめんねぇ。委員会の集合場所がわかんなくなっちゃって」


「いや、大丈夫ですけど…」


なんで要がここに?その問いかけと柔らかそうな要の頬に思わず手が伸びたのは同時だった。



昼下がりに髪結いと。
(寝顔初めて見たな…)(んー…?ハッ。わ、わ、久々知先輩っ…!?)




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