ぜったいにたすけます
左近くんと数馬の2人に押さえられてはもがくこともできずに倒れ込む。乱太郎と伏木蔵くんが慌てて駆け寄ってきた。
「あわわわ左近先輩、三反田先輩…!」
「要先輩大丈夫ですかぁ〜…?」
「一体なにを考えてるんだよ要!」
「伊作先輩の安否だけど…」
「これだからあなたは!」
き、と左近くんに睨み付けられて僕は笑みをひきつらせる。
「僕が言ったことをなに一つわかっていないではないですか!」
「さ、左近くんや落ち着いて…」
「作法委員会がどんな細工をしたかわかんないんだよ?いっつもなにも考えないで行動するんだから!」
「あ、その…えっと…ごめんなさい…」
「乱太郎!伏木蔵!」
「「はいっ」」
数馬が鋭い声のまま、一年生たちを呼ぶ。はらはらと状況を見守っていた2人は、びくっと体を震わせた。
「作法委員会の綾部喜八郎先輩を連れてくるんだ!今すぐ!」
「綾部喜八郎先輩を…?」
「いいから!行け!」
「「はいぃ!」」
乱太郎の疑問を無視して数馬が怒鳴ると、一年生2人はわたわたと駆け出して行った。
「綾部先輩にどんな仕掛けをしたのか聞くんですね」
「いくら作法委員会でも、まさか刃物を降らせたりはしないだろ…」
疲れたような表情の数馬は左近にそう笑いかけると、僕から体を離した。
「だから!綾部先輩が来るまで要は動かないこと!わかった!?」
「…はーい」
「誠意が籠もってませんね」
「…はい」
左近くんと数馬に囲まれ責められては、僕はなんにも言えない。穴のなかを覗いて、伊作先輩を呼んでみたがやはり返事は返ってこなかった。
※※※
「兵太夫ー!」
「あれ?乱太郎じゃない」
廊下の向こうから走ってきた乱太郎と遅れて到着した伏木蔵に、乱太郎と同じ一年は組である笹山兵太夫は目を丸くした。
「伏木蔵まで。なんかあったの?」
「なんかあったじゃないよ…!伊作先輩が落とし穴に落ちて…!」
「…善法寺伊作先輩が落とし穴に落ちるのは、もう日常生活の1コマでしょ?なにを今更」
「要先輩みたいなこと言わないでよ!作法委員会は一体どんな仕掛けをしたのさ!」
乱太郎がまくし立てると、兵太夫はポカンとしてから目を輝かせた。
「仕掛け?善法寺伊作先輩、あの落とし穴に掛かったんだ!?」
「え?う、うん?ねぇ伏木蔵」
「僕、遠目から見てたよ…!暗くてよく見えなかったけど…伊作先輩が落とし穴に落ちたあと、ズザザーって虫みたいなのがいーっぱい穴に…ひぃい…すごいスリル…」
「虫!?兵太夫!虫が落ちるように仕掛けたの!?」
「えぇ?あははは、やだなぁ2人とも、虫なんかじゃないよ」
肩をすくめて、兵太夫は笑いながら種を明かした。
「あれはただの落ち葉。小松田さんが集めてたのをもらったんだ」
「落ち葉ぁ?なんで落ち葉なんか…」
「僕か試したかったのは、落とし穴の仕掛け。だからなにを落とそうかは別になんでも良かったんだ。あとで綾部先輩にどんな具合だったか聞こうと思ったんだけど」
「もー兵ちゃん!落とし穴なんか僕たち不運委員会が落ちる可能性が一番高いんだから、そういうの今後一切やめてよね!」
「えー?うーん、まあ仕掛けは試せたし…我慢はするよ」
「伏木蔵、戻ろう」
「うん!」
「じゃ!」
くるりと踵を返すと、あっという間に走って行ってしまった2人を兵太夫は首をかしげながらも見送った。
「兵太夫」
「あ、立花仙蔵先輩。こんばんは」
「どうしたんだあいつら。伊作がどうとか要がどうとか?」
「さぁ?」
※※※
「作法委員会の仕掛けは落ち葉だったんです!」
「はぁ?」
「仕掛けだけを試したかったらしくて…落ち葉を仕掛けただけらしいです…」
「じゃ、じゃあ…」
呆れ顔の左近くんと脱力する数馬。さて…と、僕はクナイを地面に深く刺してそれに縄を巻きつけた。カギナワが無いから仕方ない。
「なら、問題ないよね」
「「「「え?」」」」
ぱっと足を離せば、ひゅるると風の音が耳をかすった。上では「ああああー!」というみんなの声が聞こえてくる。
「…っと!はは、着地成功ー」
「要ー!大丈夫ー!?」
「大丈夫ー!」
数馬に言葉を返して暗闇を探ると、落ち葉にまみれながら転がっている善法寺伊作先輩を発見できた。
「伊作先輩!伊作先輩!」
「う…ん…」
「気絶してたのかな…?伊作先輩!しっかりしてください!」
「…んん、…ぐっ!?ゲホッゲホッ!」
「あー落ち葉が口に入っちゃった…伊作先輩?大丈夫ですか?」
咳き込みながら慌てて起き上がる伊作先輩に、背中をさすってあげる。ぺっぺっと口のなかの落ち葉を追い出すと、暗がりに伊作先輩が僕をみたのがわかった。
「うえ…要…?」
「はい。一ノ瀬要です。伊作先輩、お怪我はありませんか?」
「あれ…僕…」
「落とし穴に落ちたんですよ。たぶん、頭を打って気絶されていたんだと思います」
頭痛みますか?と聞くと、少しだけと言って苦笑する伊作先輩にホッと胸を撫で下ろす。とりあえず大丈夫みたいだ。
「保健委員会のみんなもすごーく心配してましたよ?縄がありますから、出ましょう」
「うん。ありがとう、すまないね」
「いえ!」
縄を掴んだ刹那。なにやら上でもめる声が僕たちに届いた。
「うわあああ!」
「えっふしきぞっ…わああ!?」
「いたっ!?」
「えっ!?お前たち…わああああああ!?」
「え」
なにしてるんだろうと見上げれば、降ってきたのは若草色と青色と水色。もとい、数馬と左近くんと乱太郎に伏木蔵くんだった。
「「えええええあぐっ!?」」
この狭い落とし穴の中。僕と伊作先輩だけでもギュウギュウなのに。4人も子供とはいえ人間に降ってこられては、ひとたまりも無かった。
「いたた…なにするんだお前たち!いきなり僕を突き飛ばしたりして!」
「僕じゃありませんよ!乱太郎です!」
「ちちち違いますよ!私は伏木蔵に押されて…!」
「ごめんなさいぃー…蛾が飛んできたからびっくりして思わず…」
「いーたたた…あーびっくりしたぁ…」
「あっ。伊作先輩!大丈夫ですかぁ?すみません…」
「はは、大丈夫だよ乱太郎。みんな怪我はない?」
「「「「はーい」」」」
「よし。みんな怪我は無いみたいだな。みんな……みんな?」
ぴた、と保健委員会5人の動きが止まる。保健委員会委員長、善法寺伊作は1人1人暗がりのなかゆっくりと後輩の顔を確認した。
「数馬…」
「は、はい」
「左近…」
「はい」
「乱太郎…」
「はい!」
「伏木蔵…」
「はいぃ…」
「要…」
僕の安否を確認してくれたお節介忍は、返事をしなかった。
「「「「「あああああ!」」」」」
わたわたと5人が暗闇を探るとぐったりと動かない要を発見した。
「うわああああ要!」
「おおおおおちついて下さい三反田いいいい!」
「わわわわわ左近先輩いぃいぃ私は乱太郎ですうぅぅう」
慌てて抱き起こす数馬に、乱太郎を揺さぶる左近。伏木蔵もそれに感化されてあわあわと慌て出す。
「みんな落ち着け!数馬!あまり要を動かさないで!意識はあるか確認!」
「は、はい!要!要!聞こえる?要!」
「返事…しないですよ…」
「う、う、うわあああん要があああああ!」
「か、数馬落ち着い…」
「泣かないで下さいよ三反田先輩いいうわあああん」
「いや、左近。きみも泣いてるけど…」
びえええと一年生まで泣き出し、収集がつかなくなって頭を抱えた不運委員長に鶴の一声。
「なにをしている伊作」
保健委員会+α無事救出。
(仙蔵おおお!ありがとうう)(いや…それよりいいのか。要がぐったりしているが…)(あああああ!医務室ー!)
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