お節介の助っ人忍
「今日の夜の委員会は…無しだ…」
「え?そうなんですか?」
乱太郎、しんべヱ、きり丸の部屋。「お願いしますうぅ!」と泣きつかれてきり丸の内職のアルバイトを手伝っていると、部屋を通りかかった中在家先輩がそう告げた。
「この間かなり頑張ったッスからねー」
「(こくん)」
「「(なぜ僕らを撫でながら会話するんだろ…)」」
きり丸と僕の頭に手を置きながら話す中在家先輩。最近雷蔵先輩にもその影響がでているような気がする。
「…ところで、なにを作ってる…?」
「あっ。これッスか?」
にーっと笑いながらきり丸が差し出したのはお手玉だった。
「お手玉や巾着袋を作るアルバイトらしいです。これなら部屋で出向かなくても出来るからって。でもきりちゃんたら溜め込んでたらしくて…」
「僕たちが手伝ってるんです〜」
「要先輩まで巻き込んで全くもー」
乱太郎としんべヱがきり丸を呆れた目でみる。僕は「気にしなくていいよ」と三人に苦笑した。
「そうか…ほどほどにして…寝なさい…」
「へっ…」
ぐい、と中在家先輩に腕を引っ張られて、なにか小袋を渡された。
「中在家先輩…?」
「お前は…無茶をし過ぎ」
「?」
キョトンとする僕の目には中在家先輩が微笑んだように見えた。
「あ、中在家先輩行っちゃったよきり丸?」
「要先輩なにもらったんですかぁ?」
「お駄賃!?お駄賃!?」
障子を閉める乱太郎の言葉を聞かず、興味津々に覗き込んでくるきり丸としんべヱに小袋の紐を解いた。
「…金平糖だ」
「いいなぁ要先輩!」
「しんべヱ、あーん」
「ほぇー?」
ポカンと開けたしんべヱの口に金平糖を放り込む。
「甘いー」
「みんなで食べなさいってことだと思うよ。はい乱太郎ー」
「あーん」
「あっ俺も俺も!」
「はいはいー」
金平糖を口に放り込んできゃっきゃっと楽しそうな三人に、僕の表情も緩む。完成したお手玉を籠に仕舞っていると、バタバタと騒がしく誰かが部屋に飛び込んできた。
「乱太郎ー…!」
「一年ろ組の鶴町伏木蔵、どうしたの?」
「たたたたたいへん!」
「落ち着いて。なにがあったの?」
「ふわあっ…さ、三年い組の一ノ瀬要先輩…」
肩にポンと手を置いて落ち着かせると、伏木蔵くんは落ち着いたようで「大変なんです…!」と口を開いた。
「善法寺伊作先輩が…!落とし穴に落ちて…!」
「「「「……」」」」
「はれ…?」
「伏木蔵くん…伊作先輩が落とし穴に落ちるのはもう日常生活の1コマというか…」
「要先輩って意外に辛辣ッスよね」
「きーりーまーるー?」
「いだだだだ!」
「違うんです!その落とし穴に作法委員会が細工をしていたみたいで…」
「「「「えっ!?」」」」
作法委員会と聞いて僕たちの顔色が変わる。これは…ただ事じゃないぞ!
「細工って…どんな?」
「落とし穴に落ちると同時に、横に設置されていた仕掛けが降ってくるみたいなんだけど…」
「ひぃい〜…さすが作法委員会…」
乱太郎はしんべヱと抱き合って震えた。僕は立ち上がって糸くずを払う。
「伊作先輩は医務室?」
「まだ落とし穴のなかです…三反田先輩と左近先輩が向かってて…僕は乱太郎を…」
「うん、僕も行く」
「私も!ごめんきりちゃん。ちょっと行ってくる」
「お、おお」
※※※※
「うひゃあ…深いなぁ」
「どうしましょう三反田先輩。暗くてよく見えないし…」
「伊作せんぱーい!聞こえますかぁ!」
声をかけるが、応答がない。川西左近と三反田数馬は顔を見合わせて、焦燥した。
「僕、縄を持ってきます!」
「うん。お願い」
左近が走り出すの同時に、数馬の耳にお節介なあいつの声が届いた。
「数馬!」
「えっ…要?」
暗がりに驚いたように目を丸くする数馬がみえた。乱太郎と伏木蔵くんが遅れて到着する。
「どうしたの…?」
「伏木蔵くんから訳を聞いてね。僕も手伝うよ」
「本当に!?ありがとう!」
「うわあ…綾部先輩もまたえげつない落とし穴を…」
「うん…さっきから伊作先輩に声をかけてるんだけど、応答がないんだ」
「え」
注意して落とし穴を覗き込む。月明かりでは足りないらしく、穴のなかはよく見えない。
「いま左近が縄を取りに行ってる。伊作せんぱーい!返事して下さぁい!」
やっぱり返事は返ってこない。その様子をみて、乱太郎が真っ青な表情でぽつりとつぶやいた。
「伊作先輩…声が出せない状況なんじゃ…」
「ええぇえ!?声が出せない状況って…どんな状況…?」
「すごく怪我をしてるとか…」
「ふぇえ…!」
「乱太郎、伏木蔵、落ち着けよ…!」
数馬の声に二人は真っ青な顔のままコクコクと頷いた。やがて左近くんが息を切らせながら走って戻ってくる。
「縄っ…ありました!って、要先輩?」
「左近くんこんばんは」
「なんでいるんですか」
「…冷たい」
がっくりと肩を落として、僕は左近くんから縄を受け取った。
「じゃ、僕は降りて様子をみてくるから」
「「ちょっと待ったぁあ!」」
「うわっ」
縄を降ろそうとした僕に、数馬と左近くんが飛びついてきた。ものすんごい形相で。
→
続きますよ。
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