差し出される現実(※ここから三年生篇)

※血注意


「うわぁああ!要!」


「!?、あー…びっくり、した…」


自室で風呂の準備をしている最中だった。泣きながら飛び込んできたのは、同室の伊賀崎 孫兵である。


「どうしたの、孫兵」


「うう…ジュンコが…テルミもカメコも…!」


「あー…いなくなったんだね…どれ」



とりあえず涙でぐしゃぐしゃの孫兵の顔を拭いてやる。


「生物委員会は?」


「総出で探してる…」


「僕はどこを探したらいい?」


「長屋…忍たま長屋を頼めないか。僕も行くから」


「わかった」


良かったお風呂に入る前で。
僕は用意をそのままに、孫兵の後に続いて部屋を出た。


「じゃあ僕はあっちの長屋を…「せんぱーい!」


孫兵の指示を遮って、一年生たちがパタパタと走ってきた。


「あ!要先輩!」


「こんばんは!」


「はいこんばんは。僕も一緒に探すからね」


「ありがとうございます!」


すっかり顔馴染みになってしまった生物委員会に微笑むと、一年生たちは孫兵に虫かごを突き出した。


「テルミとカメコ…中庭で保護しました…」


「孫次郎が見つけたんですよ!」


三治郎の言葉に、孫兵は虫カゴごと孫次郎を抱きしめた。


「良かったー!」


「偉いね、孫次郎」


はいぃ、と照れたように頷く孫次郎を撫でてやる。虫の安全を確認すると、孫兵は「あとはジュンコだけだ…」と俯いた。


「大丈夫だよ孫兵。僕、長屋の方を探してくるから」


「わかった。よし、いこう」


また散り散りになった生物委員会。僕は廊下ですれ違う先輩や後輩にジュンコを見たか確認しながら、長屋沿いの道を歩いていた。


「ここは…うわぁ、五年生の長屋…」


い、行きたくない…!
鉢屋先輩に会ったりしたら、ジュンコ探しどころじゃなくなる!


「ジュンコー…ジュンコー…出ておいでー…」


小声でジュンコを呼んでみるが、どこにもいない。いない!うん!ここにジュンコはいないんだな!よし、別のところを探そう!


意気揚々と踵を返そうとした僕の足が止まる。目敏い…じゃなくてええと、耳敏い?僕の耳が押し殺すようにして泣く、誰かの声を拾ったからだ。


「…?」


誰だろう。


灯りがついてる五年生の部屋の隅。ひとつだけ、灯りのついていない部屋があった。


そろそろとその部屋に近づいて、息と気配を殺し、障子を開けた。


「…っ…ぁ…」


「久々知先輩…?」


「っ!誰だ!」


「えっ。あの…」


障子を恐る恐る開けて姿を見せると、久々知先輩が息を飲んだのがわかった。


「要っ…」


「す、すみません。ジュンコを探していて…偶然…」


「…そうか。ここにはいない」


「そうですか…あの、入ってもいいですか?」


「っ駄目だ!」


「…久々知先輩、」


良いと言われてないが、部屋に入る。雲に紛れていた月が現れ、月明かりが血まみれの久々知先輩を照らした。


「!?久々知先輩っ…血が…!」


「っ来るな!」


駆け寄ろうとした僕を、久々知先輩の切羽詰まった声が止める。


「…私は、私はっ…」


「久々知先輩…」


五年生になると戦場での実習が始まり、六年生になるとその量が跳ね上がると聞いた。


「野外実習…だったんですね」


「…」


「久々知先輩。大丈夫ですよ、僕しかいません。ここには殺しはありません」


「っ…あ…ああ」


咳が切れたのか、久々知先輩が嗚咽を漏らす。しかし、それを許さないとでもいうように、久々知先輩はその嗚咽さえ押し殺そうとした。


「私はもうっ…五年生なんだ…!殺すことにっ…慣れなきゃいけないんだ…!」


「はい」


「なのに、ひとつの命を奪ったくらいで、足が竦んでっ…勘ちゃんまで巻き込んでっ…」


「はい」


「怖くない!私は殺すことに恐怖なんて感じてない!怖くないんだ…!」


「久々知先輩」


久々知先輩の肩に触れた瞬間。びくん、と過剰なくらい久々知先輩の肩が跳ねた。


「…駄目だ…要…血で汚れる…」


「お風呂まだなので、心配ご無用ですよ」


「…」


「すごく、難しいことだと思います」


考えながら、言葉を選びながら、


「僕はまだ三年生だし、実習の経験なんてほとんど無いです。でもきっと、殺しに僕が慣れることはありません」


「…」


「だって、それじゃただの鬼ですよ」


「!」


昔、中在家先輩に薦められて読んだ本。侍の話。家族を守ろうと心を殺し、斬って斬って斬って斬って、最後に家族をも殺してしまった侍は"鬼"になってしまう話。




中途半端ですが。続きます。
勘ちゃんは足を竦んで動けなくなってしまった久々知に気づき、間に合わないと判断して庇います。五年みんなは勘ちゃんに付いて、医務室にいます。

長次は実習を初めてして、なにも知らない後輩に見せたくない見せたくないと葛藤した結果が要に渡した本なのだと思います。

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