いい加減にしなさい

「ぐっ…ゲホッゲホッ!」


「うぇええ…」


咳き込む作兵衛と吐き気を催したらしい三郎次くん。僕は心を鬼にして2人を見下ろした。


「ほら、作兵衛!三郎次くんも!ひとまず落ち着いて」


「要!?」


「一ノ瀬要先輩…?」


「はい、はじめまして一ノ瀬要です。よろしくね」


にこっと三郎次くんに挨拶をすると、三郎次くんはたじろいだように「は、はあ…」ともらした。


「どうしたんだよいきなり…七松小平太先輩みたいなこと言いながら」


「暴君には空間をねじ曲げる力があると、僕は思う」


「はぁ…?」


いや、ただの一般論。と首を横に振って本題にもどる。


「それで、なんで喧嘩してたの」


「「こいつが!」」


息ピッタリにお互いを指差して、2人はギッとまた睨み合った。


「台詞被せんじゃねーよ富松!」


「被せてきたのはお前だろーが!」


「なんだと!」


「やるか!?」


「いやいやいやいや」


お互いに飛びかかろうとした2人の間に入って、頭をがしっと掴んで止める。うわっ…作兵衛力が強い。


「どうどう、暴れない暴れない」


「がーっ!」


「ぎーっ!」


「えっ。いや落ち着きなさい君たち!?日本語取り戻して!」


やがてハッと我に帰った2人を離して、くるんと作兵衛の方を向く。


「じゃあ作兵衛から。なにがあったの?」


「…俺が三之助を探して歩いてたら、手裏剣が飛んできたから拾ってやったんだ」


「ふむ」


「で、池田が走ってきたから「気をつけろよ」って渡した。そしたら馬鹿にすんなとか言って飛びかかってきて…意味わかんねぇよあの馬鹿」


「なに!?」


「三郎次くんどうどう。よしよし、三郎次くんは?」


「…手裏剣が飛んできたから、拾いに行ったら富松がいて手裏剣を渡すときに、馬鹿にしたみたいに笑ったんです」


「だから笑ってねぇよ!」


「笑ってただろうが!」


「あーはいはい。わかったわかった」


また取っ組み合いになりそうだったのを宥め、うーんを腕を組む。


つまりお互いが発端で取っ組み合いに言い合いが始まって、お互いにブレーキがかけられなくなったと。


「話を聞くところ、お互いに非はあったんだし…とにかく喧嘩は止めにしよう?心配してる人もいるんだから」


ね?と二年生三人に同意を求めれば、四郎兵衛はコクコクと頷いて、久作はため息をついて腕を組んでいる。


「別に心配なんかしてないですけど…怪我人が出るのが嫌なだけですし!」


左近くんはぷいっと横を向いてしまった。をーい素直なのは四郎兵衛だけか。


「まぁ、とりあえず一旦やめやめ。2人とも傷だらけじゃない、医務室にいこう?」


「これくらい平気ですから」


掴んだ腕が勢いよく振り外された。それをみてカチンときたらしい作兵衛が三郎次くんの腕を掴む。


「おいお前、気に入らないのは俺一人だろ。要になんつー態度取ってんだ」


「っ…離せよ!」


「うるせぇ!医務室行くっつってんだろ。来い!」


「〜っそういうところがムカつくんだよ!」


「なっ…うわ!?」


「えっ…ちょ…」


突然飛びかかってきた三郎次くんにひっくり返る作兵衛。と巻き込まれる僕。


「…っんの!根性叩き直してやるかんな池田!」


「上等!」


「えっ…ちょちょっと…いたっ!」


視界がボカスカと水色と青色が怒声と一緒に混ざる。


「ふ、ふたっ…とも…いたっ…落ち着い…っ」


「わあああー!要先輩!」


「っ!要先輩!」


四郎兵衛と久作2人の切羽詰まった声が聞こえて、やがて久作がこちらに飛び込んでこようとするのがみえた。


「待て久作!」


「なんだよ左近!要先輩が!回復したばっかなのに!」


「…要先輩、先に謝っておきますね」


冷静な左近くんの声が聞こえたが、2人の騒音と怒声にかき消された。


「先輩には先輩をつけろ!年上に敬語を使うのは常識だろうが!」


「富松になんざ敬語が勿体無いだろ!」


「っんの!」


「がーっ!」


「ぎーっ!」





「いい加減に、しやがれ!」


バシャア!


「「「!?」」」


巻き込まれ擦れた頬の熱が一気に冷えた。突然降りかかった水に声のした方をみれば、桶を持った左近くんが鬼のような形相でこちらをにらみつけていた。


「三郎次!」


「は、はい!」


「お前はこんなみみっちぃ喧嘩で学園の消毒液、包帯、絆創膏を無駄にするつもりか!」


「ご…ごめんなさい…」


「作兵衛先輩!」


「は…はい…」


「いい加減にして下さい!」


「す、すみませんでした…」


左近くんは強かった。
というか最初から僕の助けなんか要らなかったようだ。ほ、としている僕の方に左近くんの視線が向く。


「要先輩?」


「(ビクッ)え?」


「次にこんな無茶をしたら、僕は許しません。いいですね?」


「心得ました…」




犬と猿は仲が悪い。
(がーっ!)(ぎーっ!)(あはは、またやってる)(いいのか放っておいて)(いいんだよ藤内。あれで健康なんだよあの2人は)

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