決断鬼ごっこ

部屋にやっぱり無い。
作兵衛に見つからないように、部屋を引っ掻き回すように探したが、無い。


「わっ。なんだこれ」


「!…なんだ左門か」


障子を開けて入ってきたのは、左門だった。布団をひっくり返している俺をみて、目を丸くしている。


「どうしたんだ三之助」


「…落とし物、したんだ」


「落とし物?部屋にか?」


「たぶん違う。部屋のなかに無いんだ…」


「うーん…よし!僕も探すぞ!なにを無くしたんだ?」


「…耳」


「えっ!?耳を無くしたのか!?」


「ちーがーう!耳貸せ!」


こしょこしょ。
左門の耳に手をおいて、内緒話をするように話す。


「ええっ!?それは大変だ!どこで無くしたか心当たりは無いのか?」


「…たぶん、昨日委員会で裏裏裏山に行ったとき落としたんだ」


「裏裏裏山だな!よーし、いくぞ三之助!」


「え」


「今日は午後の授業も無いし、外出届を取ってくるぞ!」


こうして無自覚迷子と決断力迷子は忍術学園を飛び出した。この2人の保護者がお節介焼きのあの子に泣きつくのは、しばらく経ってからのことである。


※※※


「左門ー!三之助ー!」


「出てこいオラアア!」


「作兵衛…それじゃあ出てくるものも出てこないよ…」


「だけど、だけどさぁ!」


くあああ!と作兵衛が頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「もしああああいつらが熊に襲われてたり、野犬に追いかけられてたりしたら…?いやいやいやあいつらのことだ真っ直ぐ裏裏裏山に辿り着けるわけがねぇ!迷子の途中でさらわれて、なななな南蛮に売られちまうんだああああ」


「おおおお落ち着くんだ作兵衛ええ!」


かつて無い作兵衛の錯乱っぷりに、僕は彼の肩を慌てて掴んだ。


「大丈夫大丈夫!左門も三之助も無事だって!あの2人も一応忍者のたまごなんだから」


「あ、ああ…そうだな…」


「とにかく!ここは二手に別れよう。僕は裏裏裏山に行くから、作兵衛は反対側にある町の方へ行って」


「えっ。裏裏裏山の方が遠いし、範囲が広いんだぞ?」


「? 知ってるよ?」


「…ああもうわかった!あの夕日が山のてっぺんにつくまでに、左門と三之助が見つからなかったら俺もそっちに行くから。日が山に半分隠れたら、山のどこにいるかノロシで合図しろよ!」


「おお作兵衛格好いい。わかった!」


「やかましい!火種は持ってるな!?」


「うん」


「よし、あとでな!」


言うやいなや走り出した作兵衛に、僕も背を向けて走り出す。はやくあの2人を見つけて、食事を取らせないと。



※※※



「おお!僕たちにしては珍しくちゃんと裏裏裏山についたな!」


「は?ちゃんと裏裏裏山への道のりを歩いてきたんだから当たり前だろ?」


「そうだな!」


迷子2人は、山のなかをさ迷っいた。三之助も左門も、落とし物を探すように地面に注意しながら歩いている。


「うーん…無いなぁ。ここら辺は背の高い草が多いし、探しにくい」


「おかしいなルートは合ってるんだけど」


「しかし、体育委員会はいつもこんな獣道を走っているのか?」


「だぁって、あの七松小平太委員長代理だぜ?仕方ないだろ」


「それにしたって…」


左門は怪訝そうな顔をして立っている地面を見た。


「人が歩いた形跡がまったく無いぞ。獣の足跡は付いてるけど」


「え?あ、ほんとだ」


「…?」


「…?」


「こういうときは!」


「要の十八番」


「「"まぁいっか"!」」


あはははと2人は暢気に笑いあう。"まぁいっか"。要がよくそう言いながら誰かの手伝いをするのを、2人は知っていた。


「このへんには落ちて無いようだし…あ!みろ三之助!」


「ん?あ、すげー!」


「「栗の木だ!」」


こんなに大きな栗の木は初めてみた2人は、歓声をあげながら木に駆け寄る。


「作兵衛たちに持って行ったらきっと喜ぶな!」


「ああ、登れる…かな…」


「僕にまかせろ!」


小柄な左門がすらすらと木によじ登る。「おお」と声を上げながら眺めていたが、三之助はある違和感に気がついた。


「(この木…なんで斜めに曲がってるんだ?)」


みると、木は斜め大きく曲がっていた。まるで押し付けられているようだ。


ふと地面に視線を落とす。


「(地面は、平らなのに…)」


なぜ、木は斜めに曲がっているのか、それは、それは、


"根をきちんと張ることができないから"


「!」


は、と木の根元に寄ってみれば高い草に紛れて見えなかった、"人が落ちてしまえるほどの溝のふち"がみえていて、木の根はそのふちにしがみつくように張られていた。


溝は深く、暗い。


「!左門!木から降りろ!」


「(びくっ)えっ、わ、わああ!?」


「左門!」


足を滑らせ落ちてきた左門の足を掴んだが、衝撃は大きく引きずられるように体は溝に落ちていった。




もう少し続きます。

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