赤いともだち

簡単な体力テストと筆記テストを受けて、先生に割り振られた組は「一年い組」だった。


「あ」


「…?」


作兵衛たちと別れて決められた部屋を開けると、男の子が部屋の中央で荷物を広げていた。


「もしかして、伊賀崎くん?」


「一ノ瀬 要?」


「うん、同室だね。よろしく」


「ああ」


そう返事を返すと伊賀崎くんは荷物に目を戻してしまった。


うーむ慣れるまで時間かかりそうだな。とか考えながら、僕も荷解きを始めようと荷物を下ろした瞬間だった。


「あああ!?」


「!?」


何事かと伊賀崎くんを見つめれば、伊賀崎くんは「…いない」とつぶやいて立ち上がった。


「ち、ちょっと!」


そのまま外に飛び出した伊賀崎くんの後を慌てて追う。廊下から足袋も履かず裸足のまま飛び出したところで、腕を捕まえることができた。


「!離せ!」


「あ、あの、落ち着いて伊賀崎くん。なにか落としたの?」


「うるさい!」


腕を振り解こうとする伊賀崎くんに振り回されながら、なんとか腕を離さないように力を込める。


伊賀崎くんは顔を思いっきり歪めて、僕を睨みつけた。


「なんだ!おまえには関係ないだろう!」


「落ち着いて伊賀崎くん。なにかとはぐれたんでしょう」


「!」


「だって"いない"って言ったでしょう伊賀崎くん。なにかがいなくなったんじゃない?」


「…っ」


「動くものなら余計に見つからないよ。僕も探すから」


「だめだ!」


少し驚いてしまった僕の隙をついて、伊賀崎くんは腕を振り解いた。


「伊賀崎くん…?」


「っ…だめだよ…」


伊賀崎くんの大きな目からぼろぼろと涙が落ちてくる。えええっ泣かせちゃった!?慌てて伊賀崎くんに駆け寄ると、伊賀崎くんは両腕で顔を覆ってしまった。


「見つかったらっ…きっと離れ離れになっちゃうっ…」


「離れ離れ?落とし物と?」


「おまえも僕を気持ち悪いって…あの子のこと先生に言いつけるんだろうっ…」


「…言わないよ」


「うそ…つくなよ…」


「伊賀崎くんが嫌なら言わないよ、僕」


「…」


ず、と鼻をすする音がして両腕から伊賀崎くんの真っ赤になった目が覗く。それに微笑んで「言わないよ」と繰り返した。


「本当に…」


「うん」


「一緒に…探してくれるのか…?」


「いいよ」


「…」


伊賀崎くんは袖でぐい、と涙を拭うと、僕をみつめる。


「へび」


「え?」


「赤い、少し模様がある蛇。蛇がいなくなったんだ」


「…なぁんだ」


「?」


「熊でも連れてきたのかと思ってたからさ」


すると伊賀崎くんは「そんなわけないだろ!」と大真面目な顔で返して、笑った。




ジュンコはその後、中庭で保護されました。良かったね。

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