ベンチの影に埋まる人影が、ベンチの下から街灯の当たる明るみへと這い出てくる。
黒で塗りつぶされていた輪郭が露になって、
いつか見た密閉型のヘッドフォンがはっきりと像を結ぶ。
手に握られていた光源は、音楽プレイヤーだったようだ。
まあ、つまるところ。ベンチの下にいたのは匙君プレデターである。
濡れた伏し目がちな瞳は僕を見据えたままに、
僕らの目の前で立ち上がる。陽炎が揺れるようにふわり。
「匙沼君なんでこんな..」
「おはろー、匙君」
混乱する僕と、あくまでも冷静な木瀬の声。
それに少しだけ反応するように、匙沼君は視線を僕と木瀬の間にさまよわせたが、
首を一つ捻っただけで、興味無さげに下を向いてしまった。
深夜の人気のない公園に、真っ暗で不気味な空き地に、3人。
周囲も僕らも混沌とした空気に包まれる。 これは、なんだ。
「あれっ、きゃさりんと...匙沼?」
そこに、混沌とした空気を撫ぜ掻きまわすようにさらに声が重なった。
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