一瞬で闇に溶けた女の子の声が、耳の奥で木霊する。
聴き間違いなどでは無い。
顔を上げて人影を見返したが、人影の体勢に変化は無かった。
でも、あれは僕の耳になじんだ木瀬の声だ。あの人影はきっと木瀬だ。
僕の名前を呼ぶ時点で木瀬以外ではありえない。
「木瀬?」
再度呼びかけた刹那、突然、思考に薄い膜が掛けられたように集中力がふつりと切れた。
「ふつり」本当にそんな音がした。
僕はなんでわざわざこんなところに来てるのだろう。
なんでこんな時間のこんなところに木瀬がいるのだろう。
なんで僕と木瀬がこんなところで会うのだろう。
止め処ない疑問符が文字となって、ぐるぐると音を立てながら回転する。
公園に踏み入る前に一瞬だけ感じた感覚と似た、なにか。
思考は回転に追いつかず、疑問符の解答が出る見込みは無い。
脳が直接殴られている様な不快感。足元が揺らいで立っていることすら苦しい。
なんなんだ。わけが、わからない。
木瀬の姿を視界に探す。やっと捕えることのできた木瀬らしき人影も、
次第にプリズムを介したかのように曖昧に虹色に歪み始める。
それは、道中感じた感覚と酷似していて、その感覚よりも数十倍に重い。
意識が、落ちる。
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