窓をがた、と揺らす黒色の風。
揺れないカーテンと、揺れる人工的な明かり。
ふと、目の前の活字が歪んで読めなくなった。
「むむ」
幾度も目を擦ったが、歪んだ視界に変化は無い。
集中力が切れたのだろう、と僕は文庫本から顔をあげる。
「ふー」
体から二酸化炭素とその他もろもろを、抜く、抜く、吸う。
静かな静かな夜の8時。
テレビをつける気にもなれず、特別聴きたい音楽もない。
眠るには早すぎるし、勉強なんてもっての他だ。
もう一度文庫本に視線を戻したが、醜く揺れる文字に変化は無い。
「なにしよ、」
なにもしないまま。眠るまで怠惰に寝転がっていたいのはやまやまなのだけど。
(山本君は私が守ってあげる)
木瀬の中庭での一語一句が、定期的に僕を襲いにくるのだ。
文字に全身を蹂躙される。そんなの決して快い感覚では無いし。
頭を重みに任せてもたげる。空気が抜けるように、ふしゅ、と呼吸音。
今日の僕は本当におかしい。もしくは、昨日の所為だろうか。
気の狂ったセイウチのように僕はゆらり、とベットの上で左右に揺れてみては、
ミオや、サキの揺れは再現できないと嘆息する。
僕の身体のどこにも、昨日の新鮮な感覚は残っていなかった。
と、身体が横に倒れると同時に目に入る窓枠。
外の柔い明かりが部屋の固い明かりと交ざって落ちている窓際。
思い出したように梅雨独特の湿気を肌に感じる。
「外、歩くのもあり、かな。」
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