「ご愁傷様な考えだね、山本君。」
答えを返す間も無く切り捨てられてしまった。
「事実は小説より奇なりなんて、そんなつまんない言葉。私は使わないけどね。
蛇が居そうな藪は、片っ端から突いていくべきだと思うんだ。」
そんな、リスキーな。
「山本君の今までの人生、リスキーなことなんてあった?」
「ないです。」
コンマの如し勢いで心を読まれてしまった。
コンマの如し勢いで即答できてしまった。
「危ない橋は渡る為にあって、石橋を烈火の如く叩いて半壊にしてから渡るの。
そうだな、鬼の衣類も洗濯してしまおうか。」
さすがにそれはどうかと思うけれど。
木瀬は自分の言い回しが随分と気に入ったらしく声を殺して笑っている。
くくく、と。隣を通り過ぎていく男子生徒がギョッとした顔で木瀬を見て行く。
「抱腹絶倒 なう。」
さいですか。
ああ、やっぱりいつもの木瀬でしかない。
精緻な水墨画のような、淡く深い灰色の瞳。色素の薄い唇と、柔らかく白い輪郭。
木瀬リンは存外に可愛い。それは人目を惹く程に。
ならば、人間離れした綺麗さを湛えることがあってもおかしくはないのかもしれない。
それが見た者の心に不安を植え付けるようなものであったとしても。
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