校舎を灰色に取り囲む、夢のあるらしいお茶をガラス越しに見る。
ガラスが胡乱に鏡のように僕らを映している。ガラスを隔てて木瀬と目が合った。
現実離れした一瞬の風景が脳裏を掠める。
あの一瞬の残した一抹の不安が、僕に木瀬との掛け合いを単純に楽しませようとしない。
「でもこのお茶、効能とかありそう。浴びたらこうなります、って。」
「源泉が負の気持ちだからなんとも言えないけど。」
「日向ぼっこ君達に感想を聞く価値はあるかな。」
ああ、そういえば。いたな。
僕らより先に陣取って、黙々と日向ぼっこをしていた人達。
僕らが中庭を後にした時、彼らはまだ悠々と寝そべっていたから、
確かに今頃、雨、否お茶に打たれている最中かもしれない。
中庭から全学年共通の昇降口の此処までは、それなりに距離がある。
「その木瀬の観察眼みたいなの。僕、時々感心させられるよ。」
てか、ちらりとも見て無かった気がするんだけど。
つま先をとん、と床に当てるようにして上履きを履くのは木瀬の癖。
それと同時並行して歩こうとするから躓きそうになる。
危なっかしくて、見ていられなくて、支えようと僕は手を伸ばすけれど
想像どおりに、木瀬は自分の力で体制を直してしまう。
「そういえばね。」
そして、こともなげに口を開く。
「私も山本君も、クラスには恵まれてるの。山本君、周りを見たことある?
人間観察なんてしたことないでしょ。」
そういえば無い。でも。
「どんな人が居たとて、ひたすらに他人事、だって。僕は。
なら本を読んでる方がさ..」
「本を呼んでいる方が、奇想天外? 奇奇怪怪? 」
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