日向ぼっこの学生は授業をボイコットする気か、悠々と眠っている。
木瀬が立ちあがったので、僕も重い腰を上げることにする。
心臓の鼓動が、眩暈のように全身を揺らしている。
振りかえって見れば、僕らが背景にして話していた花壇はなかなか小洒落た物で、
処狭しと繁茂した小さくても鮮やかな花が、木瀬の背景で揺れていた。
その絵面は、息を呑むほどに綺麗で、まるで、まるで、
木瀬をこの世の者では無いみたいに...
「山本君、教室戻ろっか。雲が怪しい。」
再度口を開いたとき、木瀬の語調は柔らかく戻っていて、指先は天を指していた。
確かに、雲は灰色で、僕らを覆っている。6月の天気。
「山本君の寂しさを吸って、雲になりました。」
「なんて素敵な6月の天候なんだろうね?」
木瀬はスキップするように前に躍り出て、
自分を指差し「温暖前線で」と、次に僕を指さし「寒冷前線だ」と笑う。
僕はそれを無視して、木瀬の隣に並ぶように歩く。
木瀬はそんな僕に気を遣って、歩調を落としてくれる。
停滞前線だな、と僕は思う。
別に上手い事言った、などとは思ってない。
「6月だから梅雨前線だね。」
木瀬は上手い事言った、と絶対に思っている。
にやり、と素晴らしく不完全なしたり顔を一つ。
その姿はやはり、どこまでも人間らしいものだった。
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