寂しさの方角。3/5



木瀬は小さい頃から、辛いもの苦手だったよなと思いながら、
掌よりやや大きい容器を受け取る。

「ピリ辛」と評されるようなおかずが、受けとった容器に全て収められている。
そして、木瀬の可愛らしい弁当箱からは綺麗に消え去っている。

受け取った割り箸で、七味で仄かに赤い豚肉を口に放り込んでみる。
余りの辛くなさに拍子抜けすると共に心が和らぐ。

と、突然、喉元に込み上げる、言葉。

「和笠さんは怖い、と思ったけどもう少し関われば色んな表情を見せてくれるんだと思う。
 千歳さんは全然掴めない、けど彼女の周囲に居る誰もが楽しそうにしてた。」

僕は何を言っているのだろう。

頭がぼうっとして、考えていたことが止め処なく勝手に僕の口元から零れ出ていく。
木瀬がそれを聞いている。でも、そこには羞恥心よりなによりも強く、安心感がある。

「玉木さんは麻呂眉だけ、はっきり覚えてる。きっと面白い人なんだろうなってわかる。
 そう。みんなとは一度しか話してない。けど」

僕はゆっくり呼吸をする。ただ、肺の中の閉塞感を吐きだしてしまいたかった。
目を熱い膜が覆って視界が歪む、痛い、と感じた時には、もう、頬に熱い一線が引かれていた。


「一度しか話さなくても、それは、余りにも、大きな可能性だった、んだ。
 それこそ、僕を死に至らせるくらいに大きい。」

途切れ途切れでも良い。声が震えるのは格好悪すぎる。
あれ、僕は泣くほど悲しかったんだっけ。閉塞感はもう肺には無い。

寂しさの蹂躙した跡が、頭が仄かに痛む。

「お昼ごはん。ここにして良かったでしょ。」

「その通りみたい。」


木瀬が悪戯げに笑う。

ああ、本当にその通りだった。





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