寂しさの方角。1/5



「じゃ、行こっか。」

「ん? 今日は教室を移動する教科は無いはずだけど..」

「もう...あばずれッ」

飛びきり大きい声で叱責された。

誰もが、僕、ではなく木瀬の方に視線を投げる。皆一様にギョッとした顔だ。
みんなからすれば、木瀬が独りで叫んだようにしか見えていないのだろう。

まあ、なんといっても、ギョッとするのは当然で「あばずれ」なんて
木瀬のような女の子が遣う言葉で無ければ、何の対象も無しに叫ぶ言葉でもないしな。

また木瀬に変人のレッテルが張られてしまうな。と、彼女の変わりに僕が嘆息する。
果たして、これは僕の所為で掛けた迷惑に換算されるのだろうか。


まあ、当の木瀬は周囲の視線など一ミリも構わず僕の前で仁王立ちしているのだが。

と、そこでやっと気付いた。どうやら今は昼の休みらしい。
教室は随分と閑散とし、教室に残っている者の殆どが弁当を突いている。

「もう昼だよ。山本君どんなに呼んだって辞書で殴るまで気付いてくれないし。
 だって、お弁当無いんでしょう。一緒に食べようって誘ってくれてる幼馴染に、
 そんな仕打ちって無いじゃない。」

「ああ、ごめん。ありがとう。ん、そうだね、食べに行こう。屋上。」

ん?何故、僕が弁当を忘れたことを知っているのだろう。

「屋上は、山本君が飛び降りちゃうから嫌だ。」

「冗談きついって、」

厳しく睨みつけられた。サキほどの鋭さは無いけれど、堅い苛立ちを感じる。
浮かんだ疑問を口にしたところで、木瀬の機嫌は悪くなる一方だろう。僕は口を噤む。

「良いから今日は、中庭で食べるの。」

ああ、僕に異論は無い。





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