粘着質な考え事が僕の頭を執拗に蹂躙しているところ、
「やーまもーとくんっ」
突如、後頭部に重い衝撃が走った。
声が、考え事の渦を切り裂くように鮮明に聴こえ、藁にも縋る思いで僕は我に返る。
と、同時に栗色のおさげが目の前で翻って煌めいた。
「んー、木瀬。」
どうやら僕は、辞書を後頭部に垂直に落とされたようだ。
なんでこのクラスの女子は優しく起こすことができないのだろう。
そんな悪態も今は虚しく揺らぐ。
それでも、しっかりと僕を捉えている彼女の視点に
病熱から解放されたみたいに、肩の力が抜けてしまう。
悪夢も病熱も祓ってくれる、いつも助けられてしまう。
栗色の二つに結わえた髪も相まって、魔法使いな木瀬。
「だってさ、山本君。世界の終りみたいな顔してるんだもん。
嫌なものさ。幼馴染に、今にも飛び降りそうな顔されるのは。」
「そんな、ひどい顔してたか?」
頬の筋肉を両手で引っ張って、もみくちゃにしてみる。
木瀬を悲しませる表情は、これで消えてくれただろうか。なんて。
「うん、すっごい暗い。山本君とどう心中するか考えちゃうくらい。」
なんてことを言う。
木瀬は、今ので治ったよ、と言うように指先で輪を作ってみせる。
窓枠の日光が、木瀬の髪の色を栄えさせていた。
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