しかし、僕を捉えたと思われたその焦点は、僕を透かし遠くにあった。
不思議そうに歪む眉根が、すでに事実を告げていたのだ。
そして、四度目呼びかけるときにはもう、それは疑いようの無いものになってしまった。
彼女の無反応から汲み取れること、それはつまり、
ミオの視界に僕は映っていない。
僕の目の前で揺れる瞳と、先程の派手な学生集団のそしらぬ談笑が
明確な根拠となって僕に突き刺さる。
「ちゃんみおー、どしたの?」
「あ、なんか肩に当たった気がしてさ、怖いねー」
ミオの隣の女の子がちらりと僕の方に視線を投げたが、その瞳ですら
僕の姿を捉えることは無いようだった。
周囲の空気が鉛に変わったように、僕にその体重を預け出す。
鉛の中で僕は、教室へと逃走することにした。
顔が焼けるように熱い。
逃げようと全身全霊でもがくも、鉛の中では、足を引き摺り進むので精いっぱいだ。
逃げたい、逃げたい。
今日はやはり、いつもの毎日で。
そこに、いつもと違う価値観の僕は必要無いのかもしれない。
prev next