軽くなった僕の足はいつの間にか、一段一段を飛ばすように階段を上って
僕をミオの隣に連れてきていた。
昨日、少し話したからとて今ここで話しかけるのは、不自然なことなのだろうか。
交友関係が希薄な僕には判断がつかない。
ただ「話したい」と、嫌にはっきりとした欲求だけが僕を動かさんとしている。
自然に、親しげに話しかけるんだ、僕。
僕のこれからの行為を正当化できるのは僕だけだ。
階段を昇る紐の擦り切れた僕の靴と、ミオのスカートの隅っこだけが視界に揺れる。
詰まりそうになる息を、丁寧に吐き出す。また、吸って。
「おはよう。」
返事はなし。
おかしいな、と隣を向けば、ミオの後頭部があった。
艶のある深い黒の髪と華奢な肩が、僕の方を向いている。
どうやら、隣の友達との会話に夢中になっているようで、
「けーくんがねー」と、ミオが柔らかく弾んだ声を発す。
僕の声など耳に届かなかったようで、こちらに見向きもしない。
「おはよう。」
再度声を掛けながら、肩を2度程叩いてみる。ノックするように。
自然を装った行動とは裏腹に、僕の心臓はあくせくと鼓動している。
手首から上が、麻痺してしまったかのように、震えて感覚が無い。
僕のくせに、なんて大胆な行動。
「ん?」
と、そこでやっとミオが僕の方を向いた。不思議そうに眉根を寄せる。
「おはよう。」確かめるように僕は呟く。
この距離で、こっちを向いているのだから大きな声を出す必要なんてないだろうに。
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