気が付けば、小説のページを繰る手は10回目となり、
耳障りな笑い声も、煩く無い程度の背景と化していた。
今日という日の朝は、昨日や一昨日の朝となんら変わりのないもの。
僕はなんて自意識過剰な人間に成り果ててしまったのだろうか。
それから僕は、全く頭に入ってこない文庫本をスクールバックにしまい、
小学校を通り過ぎ、油臭い車の工場を通り過ぎて、教師の車に幾度か轢かれそうになる。
そんな、いつもと何ら変わりのない過程を経て、学校の下駄箱へ続く階段に辿りついた。
そして、一段目へと足を掛けたところで、ふと前方に見覚えのある後ろ姿に気付く。
制服越しでもわかる華奢な体躯に、肩甲骨ほどある深い黒色の髪が揺れている。
後ろ姿でもマイナスイオンを感じるそれは、
「千歳澪、だ」
友達と楽しそうに話しながら、階段を上っている。
昨日の一件は夢ではないのだと、一切の根拠も伴わない確信が僕の足を軽くした。
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