少し笑顔を作ってみる。にこり、と。
口角が上がって目が垂れて、何故こんなに惨めな印象の表情になるのだろうか。
自分の顔に大したコンプレックスは無い。
それでも、やはり誰の印象にも残らないというのは、
僕のこの顔にも原因があるのだろうか。
遠くで目覚ましの音が聞こえた。僕の部屋の、僕の目覚ましの音。
30分も鏡の前に居るということになる。
ふと馬鹿らしくなって歩き出したところで、
顔に残った水滴が首元から服の中へと入り込んだ。
荒々しくシャツを掴んで胸元を掻き毟る。
リビングには予定通り、市販のサンドウィッチと紙の切れはしが置かれていた。
紙の切れはしには女とは思えぬ乱雑な字で、
『仕事があるので。母。』
と書き殴られている。
共働きの僕の家で、家族が揃うことはまず無い。
今更、何を感じることも無いのだが。
母さんはまた、僕の昼飯のことを忘れている。これだけは本当に困るのだ。
また、木瀬に借りを作ってしまうことになるじゃないか。
まったく。
自分がまた惚けた顔をしているのがわかった。
僕のそ知らぬところで、僕は何を考えているのだろう。
朝食は、気持ちの悪い蒸し暑さの所為か摂る気になれず、
僕は制服へと手を伸ばした。
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