山本君の朝 。1/2



目が覚めた。ただ、ぱっちりと意識が覚醒した。
目覚ましを見れば、まだ設定時刻の30分前である。

いつもなら、その30分は何よりも貴重な睡眠時間となるはずなのに
その朝の僕はと言えば、真っ先に洗面台に向かったのだ。


6月の水道水は人肌程に温まっていて、顔を洗ったところで爽快感も何も無い。
洗面台の鏡は、惚けた顔の僕を、咎める様に映していた。

伏し目がちないつもの僕は一晩で消え去ったようだ。
全く、僕はなんて恥ずかしい奴なんだろう。

昨晩から僕はまさしく、遠足前の小学生のそれなのである。
ちょっとした非日常に心を弾ませて、浅い眠りで朝を迎える。


鏡にうつる自分とずっと見つめ合っていることに気付く。
人と目が合うなんて経験が殆ど無いからか、
相手が自分であっても少しばかり緊張してしまう。


タオルで顔を覆ってから再度、鏡と対面する。

自分で言うが、僕の顔は決して悪くないと思う。

口元こそ、両端が下がり寡黙な印象を残すのだが、
両のアーモンド型の眼は、それとは対照的に柔和な雰囲気を醸している。

それに、飾りっ気の無い髪や表情だって、むしろ僕に合っていると思う。






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