特別な日の終幕。1/2



5時限目が始まり、黒板が漢字で埋め尽くされていく。
鋭い形をした文字が羅列する黒板は、僕はあまり好きではない。

前髪をふんわりと固めた、一昔前の俳優かぶれの国語教師が
教卓の前で唾を飛ばす。


逝く者は斯くの如きか。昼夜を舎てず

この退屈な時間はどう考えたって、昨日や一昨日と見分けのつかないようなものなのに、
子、曰く、さっきまでの夢のような時間と一続きのものなのだそうだ。


意識して教室内を見てみれば、なるほど教室とはなかなか広い箱である。
その中に木瀬リンも、千歳ミオも、和笠サキも、玉木ちいも、匙沼だっている。

少し前まで保健室で騒いでいたというのに、何事も無かったかのように
匙沼は教科書を繰っていた。


そうしてみると、教室というのは小説のように見えなくもない。

たくさんの、バリエーション豊かなキャラクターが詰められて、
日々、小さい事件を重ねている。

だとしたら、僕らの2年1組は長編より短編連作型なのだろう。


ふと、木瀬が隣の席の眼鏡を掛けた男子に話しかけるのが視界に入った。
木瀬の隣に座るのは確か、このクラスの学級委員。

いかにも真面目そうなのに、不思議と取っつき難いイメージの無い人だ。

多少の距離はあれど、僕から右ななめ前にある席は、顔を上げれば
自然に視界に入ってきてしまう場所である。

ノートをペンで突きながら、笑顔で返答する学級委員を尻目に僕は
今度、木瀬の勉強を見てやらなきゃな、と思った。






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