花束を抱えて向かう教室。4/6




保健室は1階にある為、3階にある僕らの2-1の教室までは、
階段を幾度か登らなくてはならない。

朝、登校時にこの階段はなかなか辛いものなのだ。


僕の目の前にはちいとミオが、ななめ後ろにはサキがいた。
つまるところ僕は女の子に囲まれて教室に向かおうとしている。

「両手に花」とは言ったものだが、
前後に、愛らしくも個性派な女の子を携えるこの状況は、
「花束を抱える」といったことになるのではないだろうか。

我ながら悪くない、と思う。


ふと、表情が綻んでしまいそうになった。慌てて頬を拳で擦る。
まさか、長年デメリットにしかならなかった体質が、
こうして生きることになるなんて、思いも寄らなかった。

僕の体質と言うのは、
俗に「影が薄い」と表現される人が居るが、まさにそれで、
言ってしまえば僕の存在感は、一般的な人のそれを1000倍に希釈した程度しか無いのだ。

なんだか農薬の様な表現になってしまったけれど。

つまりは、こうして今、人通りの決して少なくない階段を闊歩していても
誰に冷やかされることも、噂されることも、金輪際、無いわけである。

なんてったって、堂々と歩いたところで誰も僕に気付かないのだから。

だから、教室につけば消えたも同然というのは、比喩でも無ければ誇大表現でも無い。
紛れも無い事実なのだ。


大分、疲労が溜まって来たようで、教室へ向かう足が急に重くなった。
階段を上るだけで足が重くなるなんて。僕は慢性的な運動不足なのだ。きっと。

それにしても、お嬢さん方はもう少し人目を気にしても良いのではないだろうか。
とは思う。


まさか、僕のこの体質を知ってるわけではあるまいに。



prev next



- ナノ -