花束を抱えて向かう教室。1/6



ふと、ミオが時計に目をやる。

僕もつられて時計へと視線をやったところ、時計盤に短針の姿は無かった。
13時を少しすぎたところ。

この学校の昼休みは、12時30分に始まり、13時20分に終わるため、
授業開始までは、優に20分ある。


「逆算して30分近くも気失ってたみたいだね。私からもごめんなさい。
 うちの玉木とサキちゃんが迷惑かけちゃって。」

へこりと、何故かミオが頭を下げた。
その行為はなんというか、今まさに僕が感じているふがいなさに、
拍車をかけるだけなのですが。

それに、匙沼の一件もあって実際はそんなに長い間気絶していた、というわけでも無いし。
まあ、背中にはまだ鈍痛が残っているけれど。

先程の情景反射といい、僕のくらったダメージは思ったより大きいものかもしれない。


水分の消え去り、潤滑さを欠いた口で僕は息を吸う。

「君達の誠意は伝わったって言うか、僕もとから怒って無いですし、
 謝るのは終わりにしましょう?」

乱れる文法。ほとばしる冷や汗。

自分の、目に余る醜態にいっそ消えてしまいたいと心の底から思った。
どうせ、教室に戻れば消えたも同然なんだろうけど。

心が溜息を吐くのがわかった。


ミオの不思議そうに光る目が揺れる。
彼女は何を不思議がっているのだろう。

僕の動揺したサマにだろうか、
日本語を冒涜するかの如く乱れた文法にだろうか、
舌が上手く回らず抑揚を欠いた声にだろうか、
あるいはその全てにかもしれない。


「んー。そうだね。んじゃ、謝罪会見は只今13時07分をもって終了っつーことで。
 山上君も元気そうだし、教室戻ろっか。」

「そうしよっか。」

「しゃ、みんなでかえるっすか」

ミオの後に続いたサキやちいの声は、
反省はおろか、罪悪感さえ微塵も感じさせないものであった。

もとから持ち合わせていなかったのか。
あるいは、僕に気を遣ってくれたのか。

前者の方がよっぽど可能性は高そうだ。






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