ふと、ミオが時計に目をやる。
僕もつられて時計へと視線をやったところ、時計盤に短針の姿は無かった。
13時を少しすぎたところ。
この学校の昼休みは、12時30分に始まり、13時20分に終わるため、
授業開始までは、優に20分ある。
「逆算して30分近くも気失ってたみたいだね。私からもごめんなさい。
うちの玉木とサキちゃんが迷惑かけちゃって。」
へこりと、何故かミオが頭を下げた。
その行為はなんというか、今まさに僕が感じているふがいなさに、
拍車をかけるだけなのですが。
それに、匙沼の一件もあって実際はそんなに長い間気絶していた、というわけでも無いし。
まあ、背中にはまだ鈍痛が残っているけれど。
先程の情景反射といい、僕のくらったダメージは思ったより大きいものかもしれない。
水分の消え去り、潤滑さを欠いた口で僕は息を吸う。
「君達の誠意は伝わったって言うか、僕もとから怒って無いですし、
謝るのは終わりにしましょう?」
乱れる文法。ほとばしる冷や汗。
自分の、目に余る醜態にいっそ消えてしまいたいと心の底から思った。
どうせ、教室に戻れば消えたも同然なんだろうけど。
心が溜息を吐くのがわかった。
ミオの不思議そうに光る目が揺れる。
彼女は何を不思議がっているのだろう。
僕の動揺したサマにだろうか、
日本語を冒涜するかの如く乱れた文法にだろうか、
舌が上手く回らず抑揚を欠いた声にだろうか、
あるいはその全てにかもしれない。
「んー。そうだね。んじゃ、謝罪会見は只今13時07分をもって終了っつーことで。
山上君も元気そうだし、教室戻ろっか。」
「そうしよっか。」
「しゃ、みんなでかえるっすか」
ミオの後に続いたサキやちいの声は、
反省はおろか、罪悪感さえ微塵も感じさせないものであった。
もとから持ち合わせていなかったのか。
あるいは、僕に気を遣ってくれたのか。
前者の方がよっぽど可能性は高そうだ。
prev next