ヒロインが迎えに来たら。6/6



「とりあえず謝罪会見を..」
紹介が終わり、再び沈黙が訪れる、と思ったのだが、その前にちいが口を開いていた。

言ってから、僕とサキを交互にちら見している。
サキはそんな視線に対して、律儀に睨み返している。
あるいは単に見返しているだけなのかもしれない。

言葉の意味が掴めていない僕はきっと、阿呆面を晒しているのだろう。
しゃ、謝罪会見?


僕がなにも掴めないままのところに、

「私とたまきちで戦ってたんだけどね。」

サキはさらに理解しがたい言葉を投下してきた。

「まず、私がばこーんて、たまきちを突き飛ばしたんだ。やばいと思って。
 したらなんか、たまきちすっ飛んでちゃって
 ビリヤードみたいに、山崎君だっけ?にそのまま直撃しちゃって。」

ああ、なるほど。

いやいや待てよ、盛大に溜息をつきたい衝動に駆られる。
山下君の次は山崎君か、それでも僕は山本なんだけど。

「えっと。」

つまりはなんだ。

「休み時間に和笠氏と玉木氏が遊んでいて、和笠氏に突き飛ばされた玉木氏が、
 たまたま、僕にぶつかった?」

どうにかこうにか僕なりに簡潔にまとめた言葉。

緊張しすぎて「氏」とかつけて呼んでしまったのだが、
それを揶揄する言葉も、おちょくる言葉も聞こえなかった。

「そうそう、そゆこと。それで山下君倒れてて、覗き込んでみたら
 脳震盪っていうのかなあーゆーの。わかんないけど。
 山下君、気失っちゃってて... 今はもう大丈夫なの?」

僕の名前は目まぐるしく変わっている。


大正解とでも言いたげにミオは両の手で丸を作って頬笑んでから、
また言葉に連動するように、不安げに眉を寄せて僕を覗き込んできた。

愛らしくころころと表情を変化させる子である。

こんな子に心配をかけさせてしまった自分を憎くすら感じる。
明らかに僕は悪くないはずなのに。

完全にミオに翻弄されているようだ。


突如、ふわりと黒髪が勢いよく揺れるのが視界に入る。と、

「ごめん。」

「ごめんなさい。」

サキとちいの声が重なった。

サキは頭を下げ、ちいは両手を合掌する謝罪スタイル。
完全なる不意打ちに、文字道り目が点になりそうになる。

どうやら、2人同時に謝ったのは、事前に相図があったのではない偶然の事らしく、
謝った直後にはもう、サキはちいを睨みつけ、ちいはサキの視線に萎縮していた。

サキといえば目だけで数人を殺めそうである。
ちいが死んでやしまいか不安になるところだ。

僕はと言えば、あまりにも突然の謝罪の言葉に大したリアクションも取れず
「いえ」と情けなく、2人につられて頭を下げる。

こっそりとミオが笑いを押し殺しているのが視界に入った。

謝られるのは、当然といえば当然なのだが、
なんだか僕はふがいない気持ちになった。





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