勿体ぶるようにして、垂れ幕のように上がっていく前髪。
前髪が余すことなくちいの額からのけられた時、露わになった彼女の額の上には
平安時代を思わせる丸い眉毛がちょこんと鎮座していた。
今にも「おじゃ」とか言いだしそうなアレがちょこり、と動く。
表情をドヤ顔一色にして、ちいは再び宜しくと鼻息を荒くする。
特徴が無いと思っていたポニーテール少女だが、
なるほど、まろまゆというアイデンティティーを持っていたか。
鼻白むより、僕は純水に感嘆した。
意表を突かれたというわけでは無いが、あまりにもまろまゆが綺麗に整えられている為
むしろそっちに感動を覚えるのだ。
その一方でちいのドヤ顔を横目に、サキは
『またやってるよ。タヒねばいいのに。』みたいな顔をしている。
半端なく怖い。一国を滅亡させたとかいう肩書があっても不思議じゃない程に。
肩がすくむ。
当のちい本人はけろっとしているというのに。
どや顔の余韻を残す現在の表情といい、単に気付いてないだけかもしれないけど。
少なくともわかったのは、サキは思っていることが顔に出るタイプなのだ。
一つ咳払いをして、サキが続ける。
「はい。んーで、この子がちゃんみお。」
ちゃんみおと呼ばれた垂れ目で柔和な雰囲気の女の子は、ふわりと笑う。
危ない。思わず僕までにやにやしそうになってしまったではないか。
どうやら彼女の優しい雰囲気は周囲の人間を翻弄する力があるようだ。
それも、どこまでも柔らかく。
「ちゃんみおでっす。千歳澪です。よろしくね、山下君。」
だから、山本なんだけどね。
しかしまあ、あんまりにもミオが柔らかく笑うので温かな気持ちになってしまう。
きっと彼女は常にマイナスイオンを放っているのだろうな。
prev next