「わー、すごい。咲ちゃんも来たよ!」
木瀬が歓喜の声と同時に手を叩く。静かな公園に乾いた拍手が響く。
隣で木瀬が、冷静に。あくまでも冷静に喜んでいる。
少しだけ違和感を感じるも、違和感の正体がつかめない。
木の暗闇の中から、此方の街灯に歩み出る影は、やっぱり和笠咲だった。
「いや、うん、そうだけど。え?みんなで、遊んでるわけ?
こんな時間に? 不良...じゃん。」
あの時保健室で聴いた、凛としていて少しハスキーな声がまた空気を掻く。
僕を感知してくれて、僕を介抱(?)してくれた、あの子がまた、僕の前にいる。
運命、だと思った。
「和笠さん」
僕の声に木瀬が笑顔のまま、此方に顔を向ける。
匙沼君は瞳を伏せたまま、僕に一瞥すらしない。
駄目だ。これじゃわからない。僕は、また、感知してもらえるのだろうか。
和笠さんの表情は暗くて見えない。僕の声は聴こえているだろうか。
ほんの少し。少しだけの沈黙が流れて。
「ん、なに?なんだっけ、」
和笠さんが呟く。
丈の余るスウェットを履いて街灯の下に仁王立ち。
半袖のTシャツにはでかでかと「strong」と印字されていて、なるほど確かに強そうだ。
左手に握られたバットも彼女の「strong」に拍車をかけている。
ふと、バットが地面を滑る音と同時に、夜風の中で微かに彼女の呼吸音。
「山...谷君...だっけ。久しぶり。」
確かに、彼女はそう言った。
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