焔恨



◎勝手に書いたSS
◎エリシャの母の話



 ―全ていつわりだった!
 私の絶望に答えを返す者は、鬱蒼と繁りざわめく木々以外には最早なにもない。疲労に擦りきれて震える足が腹の重みに堪えかねて、ついに私はその場にへたり込んでしまった。
 彼の恐れを私は知っていた。実のお父様にも忌み嫌われたという不可思議な力を持つ彼は、自らの子供にまでその異能が遺伝することを怖がって、想いが通じ合ってさえ私に指一本触れることも躊躇うような人だった。
 それでも共に過ごすうち、彼は私に言ってくれたのだ。

 ―あなたとの愛を残したい。あなたと一緒に、俺たちの未来が見たい。

 だけど裏切られた。
 なにもかもその場限りの甘言でしかなかった。
 私と生きていくと言ってくれたくせに。私とこの子のために前を向いてみせると笑ってくれたくせに!
 私へ甘く囁いてくれたあの夜に彼が見せた涙が、今となっては全て白々しい。
 彼はきっと恐れをなしたのだ。私の肚の中で膨れ上がる愛の結晶が、やがて燃え盛る牙を剥くのではないかという妄想に取り憑かれて恐怖したのだ。
 そうして私と、私たちの未来に背を向けて逃げ出した。

 重たい腹を撫でて、可哀想に、産まれる前から父を失った我が子へ涙を落とす。

―エリヤ、愛しい人。あなたを恨むわ。あなたが背を向けた私たちこそが、永遠にあなたの罪よ」

 私とあなたがふたりで育んできたはずの愛は、とうとうあなたの恐怖を拭いきることはできなかったのね。


―――
23/01/17



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