北方支部三番隊隊舎の医務室



「怒ってるんすか」

 遥か頭上から降ってきた声に思わず見上げた顔はさらに上を向いていて、その表情は窺いしれない。普通心疚しいことがあるなら俯くべきなのだろうけれど、飛び抜けて背の高いパルフォーロに限ってはありとあらゆる視線から逃れるためには上を向くしかない。
 薬草の青臭さが染み付いた包帯だらけの腕をできる限りの慈しみを込めて撫でてみる。殺風景な天井を見つめ続けていたパルフォーロはようやくそろりそろりと首を下げた。自らの肉体に勝手に傷をこさえることすら許されなかった少年は未だに見えぬ影に苛まれているのだ。懸命に戦う彼をいったい誰が理不尽に苦しめられようか。少なくとも、僕はそれほどまでの恥知らずにはなりきれない。
 意思を持ちうる人間ならば、誰かに手ずから用意されたものなんて気に入らなければ全て蹴っ飛ばしてしまっていい。求めるものがあるなら、たったひとつだけなんてとやかく言われたとしてもほしいだけほしがっていい。

「ケーキでも食べにいこうか?」
「……パフェがいいです」
「わかった、パフェにしよう」

 ねえ、パルフォーロ。おまえが何かを後ろめたく思う必要なんか、この世にはこれっぽっちもないんだぜ。


――――
19/02/16


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