財布



 ほんとうまそうに食うよなあ。
 じっと見つめる俺の視線に顔を上げた彼女に首を振って、もひもひと動く柔らかそうな頬についたソースを指で拭う。甘辛いこの味が俺のお気に入りだ。彼女も気に入ってくれたようでよかったと思う。
 しかし、小さな彼女にここの屋台のホットサンドは大きすぎたかもしれない。馴染みの親父さんは実に気前がよく、俺が友人を連れてきたと見るや否やいつも通りの値段でいつも以上にたっぷりと具を挟み込んでくれた。おかげで小さなお口とお手々はべたべただ。食べきれる量かもわからない。もし残っちまったら、俺が食ってやろう。
 そう思ったそばから少女の赤い瞳が食いもの屋台の文字をなぞっていることに気付く。どうやらこのお嬢さんは俺が思っている以上に食い意地が張っているらしい。
 食べ終わった頃を見計らって、彼女が熱視線を注いでいた串焼き屋を親指でさす。

「あれ、うまそうだな」
「ええ、とても」

 少しばかり寒くなり始めた懐を撫でさすりながら、手拭いで綺麗にしてやった細っこい手を引いて歩く。祭はまだ始まったばかりだ。


――――
18/08/19?


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