『バット、積み木、鍋』



 躾棒で頭をすっぱ抜いてやろうかと思った。そうしたところで、崩れかけた積み木造りの砦みたいな頭をした男は何も悔い改めることはないのだろうが、少なくとも私の胸のうちは随分すっとして心地がよいに違いない。
 かつて私の番にとも目されていた雄は、我が弟ユバリゴを見初めたその眼以外はとんでもないこわれものだった。頭が悪く、自制心がなく、先を見据える能力がない。
 調味液の滴る肉にかじりつくヴァナデゴと目が合ったときには、最早ため息のひとつさえ出てこなかった。
 侍女が燻製にするため処理をしたはずの肉の山が大鍋と取り除いた脂ごと姿を消したと騒いでいたから、もしやと思って無駄にでかい図体を探してみれば、これだ。
 生まれ落ちた群の中でも、さぞやのびのびと過ごしていたのだろうと見知らぬ過去を空想するたびに、やはり私たちはこの厄介者を体よく押し付けられたのだと確信する。せっかく手放せる機会があったのをふいにしてまで身内に抱え込んでしまったからには、労に見合う程度の働きを見せてほしいものだが、日々の生活においては残念ながらヴァナデゴは寄生虫以下だった。

「ユバリゴに知れたら、いったいどうなることか……」

 お前も、私も。その言葉に先ほどまでちっとも悪びれずに肉を咀嚼していたヴァナデゴはさっと顔色を変えた。

「えーっ! ユーゴくんには内緒にして!」


―――
21/01/19
Writing Training『バット、積み木、鍋』


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